「父の日を、父と飲む日にしよう」。そんな呼びかけを、大海酒販(鹿児島県鹿屋市)の専務、山下正博さんが今も続けている。「その日は家族にとって心に刻み込まれる日になるはず」と山下さん。焼酎拡販のためのビジネスライクな発想ではなく、家族が絆(きずな)を取り戻し、あるいは深めるための提唱で、酒類間の垣根を越え、“父の日は父と飲む日”一声運動が広がることを願っている。
◇ ◇ ◇
今年の父の日を契機に本格的な運動に入り、啓もうのためのチラシ10万枚を作成。趣意書とともに、日本酒造組合中央会や鹿児島県酒造組合、得意先の酒類流通関係者、地元の倫理法人会会員などへ送付し、思いを伝えた。
大海酒販は、大海酒造協業組合(「さつま大海」醸造元、同市)の販売部門を担い、山下さんは“海シリーズ”ブランドの流通網を10年の歳月をかけ築いてきた。
父の日に込めたメッセージは、両社が企画・発行するチラシ「大海紀行」6月号でアピール。「『父の日』は『父と飲む日』。むずかしいことは考えなくていい。あなたの好きな焼酎を持って、一緒に飲むことが一番」だと訴えた。
鹿児島県大隅倫理法人会会員でもある山下さん。“親子で飲む”キャンペーンは倫理運動の一環だとし、趣意書に思いをしたためた。「今まで日本の発展に寄与してきた父親たちを待ち受けているのは、熟年離婚であったり、個室に引きこもる子供たちだったり。家族の団らんが少なくなるなかで、お父さん方にとって一番うれしいのは、やはり子供とのふれあいではないか」。
自らの人生を顧みて、子供と最初に飲んだ日、父親と初めて飲んだ時の父親の笑顔--を、「生涯忘れられないシーンの一つ」だと打ち明けた。「父の日を機に、酒を酌み交わし語らう親子の姿を定着させていけば、日本の何かが変わっていくのではないか」。酒販店や飲食店の“声掛け”啓もうが、日本を変える一歩になるのではないか。
酒類の製造・販売・飲食サービス業は“感動創造業”であり、それだけに果たすべき役割は大きいとの考えが根底にある。飲食店を巻き込むことで、運動は一層広がる。「その日は、親父を泣かせるサービスをする。親父は息子と飲んだ店を忘れない。息子と飲んだことを自慢して、友達も連れてくるでしょう。息子にとっても生涯忘れられない店になる。その1日で親子は顧客になる」。
親が子からもらった酒を、有り難くて、床の間に飾り飲めない、という話をよく聞く。ましてや、子供と飲むことが、どれほどうれしいことか。そのことを、今の若い世代は知らないという。だから、「“父の日”は“父と飲む日”」というマニュアルが必要だと山下さんは語る。
「父の日が、日本中の飲食店が涙する親父であふれる日となることが夢。その日は、日本が世界へ誇り、発信できる日となる」。お酒の力を信じ描く夢。酒へ注がれる深い愛情。その日は、「お酒が喜び、感動に包まれる日」ともなる。
感動を創る。家族の団らんを創る。その一翼を担う。「やっと原点に返って、そのことに気づいた」(山下さん)。
今回の提唱は、飲酒そのものを悪とする風潮にも一石を投じ、酒の善を誇るものだ。殺伐とした社会のなかでは、これまで以上に、酒が果たすべき役割も大きくなるだろう。販売量の拡大という価値と、感動や幸せを創るという価値。酒というモノでは伝わらない固有の価値を、どこまで引き出すことができるのか、そんな問いかけにも見える。