空なるホロン、色なるモノリス 独自、糖蜜熟成〝蜜滴芋〟醸造

2023年06月21日

 【鹿児島】農業法人 八千代伝酒造〈やちよでんしゅぞう、本格芋焼酎「八千代伝」等醸造元=本社・垂水(たるみず)市上町、製造場「猿ヶ城渓谷蒸溜所」同市新御堂鍋ヶ久保、八木健太郎社長〉が6月16日、本格芋焼酎2品『空(くう)なるホロンver. Holographic moon』『色(しき)なるモノリスver. Artificial moon』を発売した。いずれも同社独自の方法で糖蜜熟成させた〝蜜滴(みつてき)芋〟を用い醸造した、Moonシリーズの新展開だ。
 「つるし八千代伝」「Crio(クリオ)」が定番のMoonシリーズの原料芋違いスピンオフ商品。難解な酒名は、自らの芋焼酎造りの思想で新たな境地を拓こうとする挑戦の心根を表現しているように見える。
 芋焼酎製造販売1000石規模の実業において、原料芋のほぼ全量、また麹用米の栽培を地元垂水で行う〝農醸一体〟の蔵元。農夫が醸すドメーヌを土台とするテロワールを体現している。
 蜜滴芋は「自社栽培サツマイモを当社独自の方法で長期間掛けて糖蜜熟成させた高糖度のサツマイモの商品名」。芋を完全に糖化熟成〈酵素反応促進〉させる独自製法により作る熟成芋で、2カ月を超えても腐敗しない。「糖化熟成と腐敗は芋内部では全く異なる化学反応」だという。
 焼酎原料用だけではなく、2023年冬からは蜜滴焼き芋〈食品〉の製造販売を開始する計画がある。来年本格的に事業を開始するケンファーム㈱(八木健太郎社長)の焼き芋ラインナップに入れる予定だ。
 今回発売の商品、空なるホロンで用いたのは、蜜滴芋フクムラサキ(紫芋)。新品種で希少品種、フクムラサキを全量自社栽培し、独自の方法で1カ月以上糖蜜熟成させ、上品なアズキのような蜜の甘味を持つものとした。原料特性を反映する酒質は「ブドウ、蜜様、ビター。紫芋色素から得られるポリフェノール(渋み)と、芋の糖蜜化によって得られるβ-ダマセノン(甘み)の協演。紫芋の糖蜜化で得たブドウ様の味、上品なアズキのような蒸し芋香、味を絞める少しのビター感が特徴」。
 色なるモノリスでは、蜜滴芋シルクスイートを使った。食用で人気のシルクスイートを全量自社栽培し、一定の環境条件下で1カ月以上糖蜜熟成させ、甘く蜜たっぷりの芋、繊維の無い食感とすっきりした甘みの芋とした。酒質は「フルーツ、チェリー、爽やか。芋の糖蜜化によって得られるβ-ダマセノン(甘み)が特徴で、蜜芋のようなジューシーな甘さと、豊かな蒸し芋香、フルーツのような爽やかなキレが際立つ」。
 空なるホロンのラベルデザインでは「ホログラフィック宇宙」を表現。「我々が感じている現実、それは遠い宇宙の彼方から投影された映像に過ぎない。この世の万物の形とは仮のもので、本質は空(くう)であり、不変のものはない、色即是空(しきそくぜくう)。ホロンとは、ホログラフィックムーンの造語。妖(あやかし)の紫のホロンに照らされ、幻影の我は自然と同化する」。
 色なるモノリスでは「月に存在するモノリスと、現実の不確かさ」を表現。「色即是空、この世の万物の形・現象は、実体として存在しない仮のもの〝色(しき)〟である。因果と現象は必ず連動する。月の裏側に惑わしのモノリスが現れる時、形・現象に惑わされないよう、我は自然と同化する」。
 両品とも25度、1800㎖、小売価格4000円(税抜、化粧箱別売)。生産数は、空なるホロン1500本、色なるモノリス2800本。
 商品開発は3年前、2020年にまでさかのぼる。「紫芋を糖蜜熟成させると本来のポリフェノールと、糖蜜化によって生成されるβ―ダマセノン(甘み)が協演し、新しい紫芋の世界に出会えるのではと思った。2年間は別品種の紫マサリを糖蜜熟成させ試験醸造したが、従来の紫芋は糖化能力が低く糖蜜化が進みにくいのと、またそれにより焼酎も納得の味にはならなかった。そこで出会ったのが新品種『フクムラサキ』だった」。
 ちなみに、同社栽培のフクムラサキは㈲中村酒造場(鹿児島県霧島市)の中村慎弥杜氏にも提供されている。「中村杜氏の焼酎と『空なるホロン』。どちらも同じ場所で採れたフクムラサキを使用しているが、その原料の使い方や醸造方法はまったく異なる。ぜひ飲み比べも楽しんでいただきたい。今後も共同醸造的な仕込みをより深く展開していくことで話が進んでいる」と明かした。