【鹿児島】酒販店が、取り扱う芋焼酎の造りの現場に触れ、造り手の人間や思いを感じ取る。芋の生産農家や研究者の話を聞き、商品の背景にあるものを知る。そんな交流勉強会「『黒瀬東洋海(くろせとよみ)』薩摩の集い」が9月28日催された。
「黒瀬東洋海」は2006年に発売された芋焼酎。白金酒造(鹿児島県姶良町、竹之内晶子社長)が、食用に開発された赤芋品種「ベニマサリ(紅優)」、麹米に酒造好適米を使って醸造したもので、酒名に同社の杜氏、黒瀬東洋海さんの名を冠している。販売は酒類卸、中村酒類販売(佐賀県多久市、中村豊一郎社長)を通じた限定流通。
「(取扱い酒販店にとって)現場で、人に触れる意義が大きい」(中村酒類販売中村社長)と企画した初会合には、全国から15店20人が参加。醸造元の白金酒造と桜島を会場に、芋焼酎が生まれ来る原点に触れた。
白金酒造では、ベニマサリの栽培農家、竹下商店(鹿児島県曽於市)代表の竹下一成さんも紹介。蔵元の竹之内雄作会長による芋焼酎に関する講話を聴講後、「鹿児島で一番古い蔵」(明治2年創業)へ。焼酎造りの職人集団、黒瀬杜氏の技を今に伝える黒瀬東洋海さんからも話を聞いた。良い麹をつくるためには、いかにコメをうまく蒸すことができるかにかかっている。竹之内会長が、黒瀬さんは農業も営み、「コメを握っただけで、どういう蒸しをしていいか分かる」と説明する言葉に、一同は驚いた。コメを蒸す甑(こしき)、片や木樽蒸留器が躍動し蒸気を上げ、靄(もや)がかる蔵内に、造り手の思いも籠る。人手をかけてサツマイモを剥(む)き、醸造にふさわしい芋へと“磨く”工程もつぶさに見学。麹室をのぞき込み、生きている甕仕込みの醪にも五感で触れた。
蔵元の眼前に広がる錦江湾を跨(また)げば桜島。島の会場では、新品種ベニマサリの育種開発で、中心的な役割を果たした九州沖縄農業研究センター・都城研究拠点(宮崎県都城市)の主任研究員、石黒浩二さんの話を聞いた。育種には10年近くの歳月がかかること、食用のベニマサリで焼酎を造りたいとの申し出があった時の驚き。初めて仕込まれた時、「醪がきれいな黄色で、フルーツのような香りがしたことを今でも覚えている」。手塩にかけた芋が、焼酎へとはぐくまれていることを愛おしそうに語った。芋の特徴を実感できるよう、3種(ベニマサリ、ナルトキントキ、コガネセンガン)の蒸芋試食も行った。
「黒瀬東洋海」を湯割りと燗付けしたものの比較試飲も。燗付けには、ガス臭除去や水となじませる効果があると、その目的について竹之内会長が説明。燗は、普通の黒茶家(くろじょか)燗付けではなく、羽釜(はがま)での直火燗を用意した。羽釜は鍔(つば=羽)がついた大釜で、法事など大勢が集い燗付けが間に合わないときに使う。焼酎と水を合わせたものを羽釜に入れて、とろとろと温める。違いは瞭然。竹之内会長は“よか(良い)焼酎”について、「1杯目は少し辛く、3杯4杯と呑み進むうちに、芋の甘みがぐっと来る」との持論も語った。
交流の懇親会では朗らかに、羽釜直火燗の「黒瀬東洋海」を呑み尽くした。商品づくりにもかかわった参加酒販店の一人は、熱い胸の内を語った。「東洋海さんはぶっきらぼうだけど、心優しい人。このオヤジの焼酎、ウキウキドキドキする焼酎は、皆の応援で生まれた。是非、蔵元の人柄、東洋海さんの優しさを伝えてほしい」。