【長崎】“伝統技術と先端代謝解析技術の融合”--。蔵付き酵母をはじめ、清酒や焼酎を醸す蔵には、蔵元が解明に至らない未知の酵母があるが、商品開発面で、有用な酵母を効率的に生かしきれてはいないのが実情だ。「酵母のDNAチップを用いたバイオインフォマティクス技術を、酒類製造に活用する」。そんなテーマで産官学が共同研究し、肝機能を改善し、免疫力の増強作用があるアラニンを多く含む、機能性の高い清酒を開発した。
共同研究に臨んだのは、福田酒造(清酒「福鶴」・本格焼酎「じゃがたらお春」醸造元、長崎県平戸市、福田詮社長)、長崎県工業技術センター(長崎県大村市)、九州大学の3者。研究成果が「バイオインフォマティクス技術による機能性成分含有清酒の開発」として、4月15日、長崎市の出島交流会館で、県工技センター研究企画課・専門研究員・学術博士・河村俊哉氏によって発表された。
バイオインフォマティクスは、生命・生物情報学。遺伝子情報をコンピュータ分析するもので、医療、食糧、環境分野への活用が期待されている。同技術の応用研究は、同県では第1号となる。
目指したものは、「機能性成分を含み、かつ、味・香気成分も改良した新しい清酒」。そのために、機能性物質であるアラニンを高生産する酵母を探索。アラニンはアミノ酸の一種で、肝機能改善、免疫力増強作用があり、また酒質面で甘みや旨みに重要な影響を及ぼす。合わせ、クエン酸、乳酸を高生産する酵母の探索も行った。
まず、福田酒造の清酒製造用の醪(もろみ)から100株の酵母を分離。その100株から、①アラニン、乳酸、クエン酸を高生産する酵母2種(F-90、91)を分離。②乳酸、クエン酸の生産量は少ないが、アラニンを高生産する酵母1種(F-42)を分離した。
分離後、アラニン、乳酸、クエン酸を高生産する酵母の遺伝子を抽出して、DNAチップを用いた解析を行った。酵母は6000個の遺伝子を持っているが、各種有用酵母においては、遺伝子の発現に差が見られたという。最終的に得られた2種類の有用酵母を用い、F-42で純米吟醸酒、F-91で低アルコール酒を製造した。
有用酵母で醸造された純米吟醸酒は、アラニン含量が151μg(マイクログラム)/ml。これは福田酒造が通常製造する大吟醸酒の2・1倍量、純米酒の1・4倍量、普通酒の1・8倍量に達した。
味を感じさせる呈味成分の一種である、リンゴ酸は544μg/ml、コハク酸は443μg/ml生産され、通常製造の吟醸酒、純米酒よりも高い値を示した。香気成分はカプロン酸エチルが1・2μg/ml、酢酸イソアミルが1・4μg/mlで、吟醸香の指標となる酢酸イソアミルとイソアミルアルコールの比、E/A比は2・2で良好な吟醸香を生成した。官能検査でも、「吟醸香があり、キレ、ふくらみのある」良好な結果が得られた。
低アルコール酒(発泡性、アルコール分4度、ボーメ度9、酸度3・7)は独特なタイプ。甘酸っぱいが、後味がさっぱりした、ヨーグルトの風味もする、調和のとれた風味に仕上がったという。
県工技の河村氏はバイオインフォマティクスについて、「有用酵母株の効率的なセレクションに役立つ技術」だと語る。造り手の勘や経験に頼ってきた分野での活用で、再現性も高まるとしている。
福田酒造は、5年前から焼酎粕を100%自社処理。独特の処理法で培養土へと資源化している。酒蔵には多くの“宝”が眠っている。そのひとつ一つを、挑戦を重ね掘りおこす。
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開発商品2種(特別純米吟醸「福鶴(ふくつる)」<720ml、参考小売価格・税込1995円=製造2100本、“微白泡”純米吟醸「初恋音(はつこいね)」300ml、同645円=同1800本)は、研究発表を機に発売した。