「ホワイト物流」推進運動 酒類業界でも

2019年08月05日

 深刻化が続くトラック運転者不足に対応し、国民生活や産業活動に必要な物流を安定的に確保するとともに、経済の成長に寄与することを目的に、トラック輸送の生産性向上、物流の効率化、女性や60代以上のドライバーが働きやすい、より「ホワイト」な労働環境の実現――を目指す取り組み「ホワイト物流」推進運動が酒類食品業界にも広がっている。

 トラック業界は、平成7年に運転者が98万人だったのが、平成27年には76万7000人と大きく減少。そのため、トラック運転者の有効求人倍率は3・03倍と全職種の1・57倍と比較しても非常に高い数字で推移している。また、運転者の高齢化も進んでおり、全産業の平均年齢が42・5歳なのに対し、中小型トラックでは45・8歳、大型トラックでは47・8歳といずれも高く、今後、さらに定年等で大量に離職が進むことも考えられている。

 こうした背景には、トラック運転者の厳しい労働環境がある。トラック運転者の労働時間は、全産業が2136時間なのに対し、2600時間と長く、さらに年間賃金も平均よりも50万程度少ないという。

 トラック運転者の長時間労働の一因となっているのが、「荷待ち」と「荷役」で、これらが1運行あたり2時間50分程度あり、長時間のムダな荷待ち、手作業での大量の荷物の積み込み・積み下ろしを削減するなど、「荷主企業と物流事業者の協力で改善できる課題もある」という。

 こうした荷主と物流事業者が相互協力を行うことで、物流の改善を図っていこうというのが「ホワイト物流」推進運動で、国土交通省、経済産業省、農林水産省が上場会社および各都道府県の主要企業約6300社に対して今年4月から推進運動への参加の呼びかけを行っている。

 参加企業は、「自主行動宣言」(必須)を行うとともに、自社で取り組むことができる項目について、29の推奨項目を参考に選定(任意)。これらを事務局に提出し、事務局がまとめて10月を目途に公表する予定としている。

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 酒類食品業界ではすでに製造業でキッコーマン食品やカゴメ、日清製粉グループなどが、また流通業では三菱食品や伊藤忠食品などが参加を表明。ビールメーカーもこのほどアサヒグループホールディングス、サッポロホールディングスと相次いで参加表明を発表した。

 アサヒグループの6社(アサヒグループホールディングス、アサヒビール、アサヒ飲料、アサヒグループ食品、アサヒカルピスウェルネス、アサヒロジ)は、「ホワイト物流」推進運動で推奨される29項目の全てに対応。自主行動宣言の中で表明する主な取り組み項目は、①「モーダルシフト」を通じて、同業他社や異業種、物流事業者と連携して効率性の高い輸送を実現する②「待ち時間の短縮」、「パレットなどの使用による付帯作業の低減」を流通企業と連携して推進することで、トラック運転者の作業負荷低減を図る③「地産地消ロジスティクスの実現」により、効率的な物流体制の実現や輸送量の削減を推進する。(アサヒグループ独自の取り組み)④「物流機器・システムの導入」による物流業務省人化や物流負荷の低減を推進。(アサヒグループ独自の取り組み)⑤RPA(ロボット技術による事務作業の自動化)等の活用による「間接作業の標準化、自動化、省人化」。(アサヒグループ独自の取り組み)――を挙げた。

 また、サッポロホールディングスは、サッポロビール、ポッカサッポロフード&ビバレッジ、神州一味噌、サッポログループ物流の4社で自主行動宣言を提出。「ロジスティクス業務の標準化」および「グループ拠点ネットワークの構築」を中心に、物流の効率化・働きやすさ向上に向け取り組むことを表明し、「関係会社との協働・協調の下、トラック待機時間の削減、場内作業・車輛の平準化、夜間業務の抑制等にて、トラック運転手や倉庫作業員の労働環境改善に努める」としている。

 「ホワイト物流」推進運動へ参加することで、業界の商慣行や自社の業務プロセスの見直しによる生産性の向上が期待できるほか、物流の効率化による二酸化炭素排出量の削減、事業活動に必要な物流を安定的に確保できることが期待されるほか、企業の社会的責任の遂行にもつながるとし、さらなる参加を呼び掛ける。また、国民に対しても、宅配便については「受け取りはできるだけ1回で」「送る際は自分や相手が受け取りやすい日時・場所を指定する」「通信販売はできるだけまとめ買いを」と呼びかけ、引っ越しについても「混雑時期を避けるように」などと協力を呼び掛けていく。