宇宙旅したロマンの味 焼酎「宇宙だより」完成披露

2012年01月24日

 【鹿児島】宇宙ロマンの味がする--。宇宙を旅し地球へと帰還した麹と酵母を使い、鹿児島県内の蔵元で造られた本格焼酎「宇宙だより」の商品完成披露の会見が1月13日、鹿児島市の鹿児島大学農学部であり、初の試飲会も催された。発売は同月27日。売り上げの一部を震災義捐金にあてる。20日には東京で鹿児島県産品を紹介するイベント「鹿児島の夕べ」に出展しPRを重ねる予定だ。

 同大と鹿児島県酒造組合の共同企画。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の国際宇宙ステーション「きぼう」有償利用事業の一環で、県内の芋焼酎・黒糖焼酎メーカー12社が参加し、鹿児島宇宙焼酎ミッション(実行委員会代表・鮫島吉廣氏<鹿大農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター長>、事務局長・馬嶋秀行氏=同大教授<宇宙環境医学>)を推進してきた。

 実際には昨年5月16日、米スペースシャトル・エンデバー号最終フライト便に、河内源一郎商店(鹿児島市)の麹3種(白麹、黒麹、黄麹)、県酒造組合・鹿大が所有する酵母3種(鹿児島2号・5号=焼酎醸造に多用、篤姫酵母=篤姫ゆかりの指宿で採取)を搭載。全重量80g以下の制限があり、ともに乾燥させたものを密閉容器に納めた。国際宇宙ステーションで約16日間滞在の後、6月1日に無事帰還。その後、同大で分析や試験醸造、培養が行われ、参加メーカーが自由な組み合わせで使い焼酎を製造した。

 「宇宙だより」は統一ブランド。今回は参加全社12銘柄(芋焼酎10銘柄、黒糖焼酎2銘柄/アルコール度25度、900ml瓶)を2000セット限定、税込小売2万400円で販売する。

 取扱いは県内3社の卸(南九州酒販、本坊商店、南国アールエスリカー)。ラベルはスペースシャトルなどを配したデザインで、カートン入り商品を並べると、地球と彼方に広がる宇宙に各社の銘柄が浮かぶ。セット販売以降は、各社が独自に商品展開する予定だ。

 “宇宙焼酎”は馬嶋さんの発案。鹿児島県には2つの宇宙基地(JAXA種子島宇宙センター、同内之浦宇宙空間観測所)があり、その宇宙と繋がる最前線で、スペースシャトルプログラム終了までに、“宇宙焼酎”を造りたいと夢を追った。完成にまでこぎつけたことに安堵の様子。研究にとどまらず、商品として発売されることも大きな喜びだ。

 鮫島さんは「“しょうちゅう”には“うちゅう”が入っている。プロジェクトを通じ焼酎文化圏の中心、鹿児島から発信したかった。焼酎が持っているロマンを感じてほしい」と話した。ラベル原画制作の黒瀬道則さん(洋画家)は焼酎杜氏の里・鹿児島県黒瀬の出身。ステッカー用のデカールを制作した河口洋一郎さん(東大教授、鹿児島・種子島出身)は「鹿児島の焼酎が世界に先駆けて(宇宙焼酎に)トライしたのは歴史的に凄いこと」だとプロジェクトの成功を称えた。

 酒造組合の本坊会長は「宇宙から帰還した『はやぶさ』が夢とロマンを与えたように、小さな命の神様たちが、サツマイモとの間にどんなハーモニーを醸してくれるのか、ドキドキワクワクしている」と試飲に臨んだ。

 帰還麹・酵母の性状に大きな変化はなく、実製造においても順調な発酵経過をたどった。それでも試飲で特別な印象があるのは、宇宙を旅したロマンが焼酎に詰まっているからなのかもしれない。共に宇宙を旅した麹と酵母が、焼酎になるために離れ、再び同じ場所に戻ってきたわけで…。

 鮫島さんの感想は「欠点は無く、香りは華やか。品の良さを感じる」。鹿児島と宇宙とのかけ橋を焼酎が担う夢が、現実のものとなった。

 参加メーカー ▽本坊酒造「桜島」▽上妻酒造「南泉」▽薩摩酒造「まんてん」▽町田酒造「里の曙」▽濵田酒造「海童」▽若潮酒造「さつま若潮」▽小鹿酒造「小鹿」▽四元酒造「島乃泉」▽大山甚七商店「天翔宙」▽種子島酒造「久耀」▽神酒造「千鶴」▽奄美大島にしかわ酒造「島のナポレオン」