焼酎造り・吉行杜氏(八千代伝酒造) 「現代の名工」就任祝う

2010年04月05日

 【鹿児島】鹿児島県の芋焼酎造り杜氏では初めて、「現代の名工」厚生労働大臣表彰を受けた吉行正己さん(よけ・まさみ=79、八千代伝酒造<八木栄寿社長、垂水市>工場長杜氏)の名工就任祝賀会が3月11日、鹿児島市内のホテルで開かれた。会には鹿児島県内の蔵元や流通、行政関係者、親交の厚い個人など約180人が臨席。56年間職人の道を全うし、後進の育成に務めた同氏の栄誉を称えた。

 吉行さんは昭和5年、杜氏輩出の地・鹿児島県南さつま市笠沙町黒瀬集落の生まれ。祝宴に供された芋焼酎は5年前、杜氏が今の蔵で醸し貯蔵してきたものだった。蔵元にとって、初の長期貯蔵焼酎。八木社長は杜氏の支えを得て平成16年、30年ぶりに新蔵で焼酎製造を再開。杜氏が名工と認められることを念願してきた。ラベルで語る。「厚みを増したその掌(たなごころ)は温かい、現代の名工吉行正己が磨いた『八千代伝・掌中の珠(しょうちゅうのたま)』、五年の歳月をかけ、匠の技を駆使した記念の焼酎を此処に刻する」。

 その技が、事業躍進の原動力となった蔵からも花が贈られ、会場を彩る。祝いの極み。祝辞は、臨席した伊藤祐一郎・鹿児島県知事、水迫順一・垂水市長からも寄せられた。伊藤知事は、焼酎が鹿児島県を代表する特産物で地域振興に貢献しているとしたうえで、「さらなる品質向上と、発展を担う若手育成を願いたい」と託した。水迫市長は、「蔵は垂水港からわずか15分、自然を満喫できる神秘的で癒される場所にある。その自然の力をいただき出来上がる焼酎は、本当に素晴らしい」と祝意を示した。

 鏡開きに続き、祝儀舞いが披露され、吉行杜氏がお礼のあいさつに立った。「ただひたすら、焼酎造りをやってきた」と感慨深け。言葉のなかで、さらなる精進も誓った。杜氏には賛美歌、アメイジング・グレイスが贈られ、焼酎造りという天命を生きた喜びや感謝と重なる響きが、会場を包んだ。

 県酒造組合・吉野馨副会長の乾杯の発声で宴に入ると、杜氏に祝いの言葉をかける輪が幾重にも広がった。杜氏の焼酎造りへの意欲は衰えていない。「現代の名工は、こんなに重いものなのか。あと2カ月ほどで80歳になるが、ついつい手の出る焼酎を造らねばと思う」。後進の育成が、業界への恩返しにつながると考えている吉行杜氏。技能者として、「これからも愚直に焼酎造りを極めていく努力を続けていきたい」と志は高い。

 宴を締める万歳三唱。小鹿酒造の岩下健一郎社長は、多くの蔵元の感謝の気持ちを代弁するように「創業の礎を築いていただいた」と語った。

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 「現代の名工」は昭和42年創設。「卓越した技能を持ち、その道で第一人者と目されている技能者を表彰するもの」(厚労省)で、昨年は全国で150人が表彰された。これまで酒類業界では、日本酒の杜氏などが表彰されてきたが、焼酎造りでは昭和53年に熊本県・球磨焼酎(米焼酎)の杜氏の表彰以来30年ぶり、鹿児島県では初。焼酎造りの職人集団“黒瀬杜氏”においても快挙となった。

 名工へは鹿児島県酒造組合が推薦。「製麹操作技能等の焼酎製造技能に卓越し、追麹の技術を考案するなど幾多の考案改善を行い、本格焼酎業界全体の振興に寄与している」「後進技能者の指導・育成に尽力している」(厚労省)ことが評価された。