「八千代伝」八木 “小さな蔵”で行く、愛飲に応える歩み確か

2005年07月20日

 【鹿児島】「予測を超える夢みたいな展開」--。一度は途絶えた焼酎の生産再開という悲願をかなえた八木栄寿さん(八木合名会社猿ヶ城蒸溜所・代表=垂水市新御堂鍋ヶ久保1332-5)。生産開始は昨年10月中旬。「市場が待っててくれるのか」「果たしておいしいといっていただけるのか」。蔵の立ち上げが決まってからは、日ごとに不安が膨らんでいったと打ち明ける。
 16酒造年度の芋焼酎の生産量は約820石。うち100石は1000L甕で長期貯蔵とし、さらに200石程度は持ち越し次年度出荷以降の品質安定に努めたいとの考えから、販売量は自ずと決まり、計画出荷のような格好。「『八千代伝(やちよでん)』をできるだけ多くの人に知って飲んでいただきたい」との願いが強いだけに、要望どおりの出荷ができないことを、申し訳なく思う日々が続いている。今期は盆明けすぐからの仕込みで、1200石程度を醸造する計画だ。
 毎日のように、蔵見学者がある状況。来訪者は、焼酎造りの現場に触れ、また敷地内にある天然の洞くつなど大自然の不思議や美にも触れる。
 現在販売中の芋焼酎は、メインブランドの「八千代伝」が白麹・黒麹仕込みの2種。限定品に「千代吉」がある。現在は米麹を使った麦焼酎仕込みの最中で、今年10月に初出荷の予定だ。
 蔵には芯(しん)がある。「この蔵は仕込みも小さく思うような造りができる。自分の(焼酎造りの)集大成をしたい」と意気込む黒瀬杜氏、吉行正己(よけ・まさみ)さん。蔵の立ち上げを力強く支えた。造りのキャリア半世紀の確かな技で、初めての出品となった鹿児島県本格焼酎鑑評会、熊本国税局酒類鑑評会で「優等賞」受賞も果たした。
 常に、町の酒屋の未来を憂える八木さん。「八千代伝」は地元垂水の酒販店に取り扱ってもらえるよう心がけ、「垂水の芋、米を使って垂水の小売店で売っていただくような焼酎を造りたい」との思いもある。“小さな蔵”で行く。“地の焼酎”の根を失わない。そんな決意が歩みを、確かなものにしているように見える。