「冨の寿」醸造元冨安 老舗銘柄存亡の危機 

2008年12月12日

 【福岡】昨年5月、民事再生法の適用を申請した冨安合名会社(清酒「冨の寿」醸造元、久留米市、冨安俊男代表)の経営継続が難しくなった。再建策を模索するなかで、韓国の焼酎メーカー、眞露(じんろ)の支援、実質的には買収を受ける計画があったことも明らかになり、業界へ大きな衝撃を与えている。特約卸は主力銘柄を失うことへ不安を強めているが、冨安代表は「自力再建の道もある」として、老舗銘柄「冨の寿」を残したい胸の内を語った。

 同社は4億6500万円の負債を抱え、昨年5月1日、福岡地裁久留米支部に民事再生法の適用を申請。「負債より資産が上回っているが、キャッシュフローが不足した」という特殊なケース。債務超過ではないため、債権カットは認められず、そのことが再建の選択肢を狭め、難しいものにしたという。

 民事再生法の適用申請から1年後の今年5月、眞露から支援の申し入れがあった。約5億円の負債の全額弁済や、同額程度の設備投資、あわせ10億円程度の支援額が提示され、役員の受け入れを求める一方、従業員20人の雇用や銘柄継続を約束するというものだった。支援のアプローチは同社以外の国内酒類メーカーからもあり、外資への経営権譲渡には抵抗があったが、「(眞露提案のような)すべての引き受け手は、国内では見つからなかった」。

 眞露は日本国内において、酒類製造の拠点をつくるねらいがあり、福岡県内の他社にも買収を打診していたようだ。冨安の単式蒸留しょうちゅう製造免許を生かし、特に乙甲混和焼酎の製造販売、そのための詰口充てんライン新設などを画策していた。

 眞露の支援を核とする再生計画案は6月12日、福岡地裁久留米支部に受理され、同社との間に基本合意も交わされていた。ところが11月6日、同社から支援できない旨が伝えられた。理由は金融危機による円高・ウォン安。新規投資のすべてを凍結する方針決定に伴う、支援の白紙撤回だった。

 現状、民事再生手続の廃止が決定。同社は従業員20人全員に対し、来年1月解雇を通告。製造・営業活動は実質、休止の状態になる。今後は、本社敷地5200坪の土地の売却などを進め、負債の圧縮を図り、「新たなスポンサー」(冨安代表)の後ろ盾を前提に、銘柄存続はもとより、自社醸造を含めた経営再建も探るとしている。銘柄存続のためには、短期的には他メーカーへの委託も視野に入れる。同社への支援については国内の清酒メーカーや焼酎メーカーから打診があるという。

 同社の創業は寛政2年(1790年)。清酒・焼酎製造兼業メーカーで、民事再生申請前、平成18年6月期の売上高は約3億7000万円。直近20年6月期2億5000万円。