【熊本】熊本国税局は3月7日、熊本市のホテル熊本テルサで「酒類業者に対する経営活性化支援研修」を開催した。熊本地震で被災した酒類業者の復興及び経営活性化を目指すもので、テーマは県産の日本酒と本格焼酎。日本ソムリエ協会(本部事務局・東京都)の田崎真也会長を講師に招きテイスティング及び表現法を学んだ。酒質を欠点ではなく加点で捉え、料理との相性までイメージしていく。すべて食事を楽しい時間とするためのサービスに徹する視点が参加者に刺激を与えた。
対象は熊本県の生販三層組合(熊本県酒造組合連合会<吉村浩平会長>、熊本県卸売酒販組合<池田正三郎理事長>、熊本県小売酒販組合連合会<松本隆司会長>)の組合員で100人が参加した。
研修は日本酒・焼酎に特化した協会の新認定制度「SAKE DIPLOMA(サケ・ディプロマ)」に沿う内容で、①ワインに準じたテイスティングアプローチ②日本酒と料理の相性に関する再考察--が行われた。対象酒は日本酒は特定名称酒5種、焼酎は米製5種・芋製1種。
すべて個性として評価する加点法。「きれいで飲みあきせず飲みやすいは個性表現ではない」。表現は意思疎通できる言語化で行う。自分で言葉を編み出すというより「予め酒が持つ特徴を頭に登録しておいて引き出す。右脳ではなく左脳で感じる」。例えば日本酒の香りは果実・花・植物・キノコ・スパイス・ナッツ・米・乳製品・土・ミネラル・ロースト香、そのほか蜂蜜・蜜蝋・スモーク香--などのカテゴリーに分類され、さらにそれぞれの引出しごとに多様な表現が詰め込まれている。「海外ではすでにその方式が採用されており日本でもトレーニングする必要がある。料理との相性を考えるうえで重要なワードになってくる」。
田崎氏が瞬時に酒質を捉え表現して見せた。ある日本酒。「外観はクリスタルにイエロー、プラチナがかった輝き」「ライチやナッツ系、つきたての餅、白木、松葉の青い香り」「味はビターアーモンド、白玉粉、サワークリームのニュアンス。心地よい旨苦みの余韻、コントラストで印象を引き締める」「豆乳碗や白味噌を使ったかぶら蒸し、白身魚の旨みを引き立てる塩煮などに合うのでは」「40~45度のぬる燗、30~35度というのもおもしろい」。ある個性派米焼酎なら「カシューナッツや土様、きのこ様の香り。ミルキーでまろやか。おだやかなアフターはカスタードクリームのよう。鯉や山女、ポトフでも」。飲み方では前割の燗付けを薦めた。
「酒は飲みやすさ、きれいさを求めていくと無個性になる。その土地や蔵ごとの個性、熊本の地で培ってきた伝統の味を大切に」とアドバイス。「これまで酒は土地のテイストに合っていたが、地方の伝統料理がなくなってくると当然、酒の味にもズレが生じるようになった。外国人の酒ツーリズムで求められるのは熊本らしい酒。その味わいを強調して」と話した。酒と料理は一対で魅力を高めるが「熊本で熊本の酒中心の料理屋が少ない。素晴らしい個性の県産酒。料理との相性・飲み方提案を観光客も海外の人も待っている。地元の人がやっていく多くのチャンスをもっている」と課題をあげた。
小売組合松本会長は「食と酒の相性を考え食生活を楽しませるのが我々の商売。もうすぐ地震から1年。メーカーが努力し造ったお酒を地産地消で勧めていきたい」と話した。
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当日同会場では日本ソムリエ協会熊本支部(桃木潤支部長)が「ソムリエのサービスと日本酒テイスティングセミナー」(講師・田崎会長)を開催。こちらは6種を対象とした。県産は瓶内二次発酵酒を含む3種と特産の赤酒1種。県外酒は山廃純米と長期熟成酒。会員対象の例会だが酒類業組合員に無料開放し、多くが局主催研修に先立ち参加した。
日本ソムリエ協会は地震被災をワインで癒し復興の力につなげてもらおうと昨夏、関係者が来熊。ワインフェスに田崎会長はじめスターソムリエが登場しサービスしたほか、飲食店や酒販店を訪ね「被災ワインを使った復興祈念ワイン会」などを盛り上げた。県へ義援金を贈ったほか、県産清酒蔵の支援になればと酒造組合にも赴きテイスティングをするなど交流を深めている。