「不当廉売」などが課徴金の対象 独禁法上、より透明に明確化する

2010年03月10日

 独占禁止法が平成21年10月28日に改正され、平成22年1月1日から施行されている。何が変ったのか。デフレ経済下には、事業活動はより健全性、そして公平性、透明性などが求められる。公正取引委員会に直接取材して、今回の改正について検証した。

 今回の改正では課徴金制度が見直され、「不当廉売」、「差別対価」、「優越的地位の濫用」が課徴金の対象として追加された。

 何をもって「不当廉売」とするのか、「不公正な取引方法」などとするのかを、「法運用の透明性」、「事業者の予見可能性を向上させる観点から」改正されたという。すなわち「どういった行為が違反となるのか、事業者があらかじめ守るべきルール」などなど(改正前からあるが)を、独禁法上において「(より)透明」にし、「考え方を(より)明確化」したということである。

 中でも、「不当廉売の要件のうち、特に『供給に要する費用』に重点を置いて」明確化をした。
 冒頭、「商品又は役務の価格を、それを供給しなければ発生しない費用すら回収できない水準に設定することは、特段の事情がない限り、経済合理性がない」とする。

 この【経済合理性がない】とは、どういうことか。

 売れば売るほど赤字となる価格設定は自らの首を締める。本来事業活動ではあり得ない。それをすることは「競争業者をつぶし、その上で独占状態になった時点で、値上げをして市場を独占する」などというようなことがない限り行わない。自ら売っても売っても赤字になるというのは、普通は事業者はしない。そういう意味で「経済合理性がない」という。

 そこで、「供給に要する費用を著しく下回る対価」の、「供給に要する費用」の範囲と、それがどこまで「著しく下回る対価」となるかである。

 費用とは「総販売原価」のこと。「総販売原価」は、卸、小売であれば「仕入原価(実質的な仕入原価+仕入経費)+販売費+一般管理費」。製造業であれば「製造原価(製造直接費+製造間接費)+販売費+一般管理費」。

 その「総販売原価」のうち、独禁法上において【商品を供給しなければ発生しない費用(可変的性質を持つ費用)】の範囲とする。

 「商品を供給しなければ発生しない費用(可変的性質を持つ費用)」には、卸、小売であれば「仕入原価(実質的な仕入原価+仕入経費)」、製造業であれば「製造原価(製造直接費+製造間接費)」は「特段の事情がない限り」、当該費用に含まれる。

 問題は、通常営業費とされる「販売費」と「一般管理費」がどこまでが当該費用に含まれるかである。注意したいのは、今回の改正で、当該費用に「販売費」と「一般管理費」が新たに含まれたと誤解されている点である。改正前のガイドラインも実務上は仕入原価を目安というところがあったが、実務上、仕入原価云々というところをより厳格に表現したところがポイントであって、会計上の名目に関わらず、考え方として、今回改正で計算式ががらりと変ったわけではない。

 独禁法としては会計上の名目に関わらず実態として費用がどのようなものであるのか、実態に則して判断する。例えば、人件費であっても原価に含まれる場合もあるし、逆に入らない場合もある。どういった基準で入ったり、入らなかったりするのかというと「商品を供給しなければ発生しない費用」というところに基づいて判断される。そういう意味で「可変的性質を持つ費用」となる。

 「可変的性質を持つ費用」とは一体どういう意味を表現しているのか。

 例えば、モノを10個作る、その時の経費が100とすれば、11個作る時に増えて110になる。1個増やして経費が増えた場合、それを「商品を供給しなければ発生しない費用」、すなわち「可変的性質を持つ費用」という。

 さらに例えば、1時間、一人の従業員を雇うと10個売る。11個目を売ろうとすると、もう一人雇わなければならない、供給量が増えることによってもう一人雇ったことになり、それは「可変的性質の費用」となる。単純に人件費という言葉だけではなく、人件費の性質によって判断するということである。

 公取委の考え方では、「事業者が、ある商品について廉売を行った場合に、廉売対象商品の供給と密接な関連性を有するもの」、「廉売対象商品の供給を開始又は継続するために不可避的に発生した費用である」などを「商品を供給しなければ発生しない費用(可変的性質を持つ費用)」とする。

 以上、「総販売原価=供給に要する費用」の内、卸、小売であれば「仕入原価」に、製造業は「製造原価」に、販売費の一部が含まれ、場合によっては一般管理費も含まれるということになる。その「商品を供給しなければ発生しない費用(可変的性質を持つ費用)」を、「著しく下回る」かどうかで、「不当廉売」(独占禁止法第2号第9号第3号)などに該当するかどうかを公正取引委員会が判断することになる。
次号では「課徴金制度の見直し」を中心に掲載する予定。