【熊本】ビール類と清涼飲料の製造設備を併設し多品種生産が可能な業界初のハイブリッド工場「サントリー九州熊本工場」は2003年7月11日竣工した。震災前の年間生産能力はビール類800万ケース(大瓶換算)、清涼飲料を加えた全能力で2000万ケース(実数)。現状、ビール類で通常生産・出荷に戻っているのは「ザ・プレミアム・モルツ」「金麦」。清涼飲料の製造再開は缶商品を4月中、ペットボトル商品を5月から予定している。
工場見学再開にあたりエントランスホールの内装をプレモルのブランドカラー紺・金を取り入れ刷新。伝えるのは醸造家たちの熱い想いだ。創業者・鳥井信治郎氏から続く同社挑戦の歴史を紹介するほか、天然水醸造へのこだわりもアピール。見学コース70分のなかでは、麦芽を食べたりホップを嗅いでもらう素材体験も。造り手による解説映像、生産設備を見ながら進む。最後の試飲ではプレモル3種(ザ・プレミアム・モルツ、同<香るエール>、同マスターズドリーム)や清飲商品を楽しんでもらう。
再開初日の4月12日、見学者受入れに先立ち会見を開きサントリーホールディングス・鳥井信宏副社長、サントリービール・山田賢治社長、同・橋本猛工場長が臨席。支援へ感謝の言葉を重ねるとともに復旧復興への想いを語った。
同社は今年3月、リニューアルした新「ザ・プレミアム・モルツ」を全国発売。九州熊本工場関係では限定醸造の樽生「火の国ビール 阿蘇」の中身をリニューアル。非売品の350ml缶を4月上旬から九州エリアのイベント会場などで約10万本無償配布する。さらに同月25日、「ザ・プレミアム・モルツ」「金麦」「オールフリー」のくまもと応援缶を九州エリア・数量限定で発売。売上げ1本につきプレモルは10円、他2種は5円を熊本城復興のため寄付する。
サントリーグループは熊本地震復興支援として「サントリー水の国くまもと応援プロジェクト」を立ち上げ約4億円の拠出を決定。熊本県の産業・観光振興、また県民生活の基盤資源である地下水の持続可能性へ貢献する活動(水源涵養「冬水田んぼ」復旧工事等)、同社ラグビー部によるラグビークリニックなど文化・芸術・スポーツを通じた心と体の支援活動を展開している。
鳥井副社長は「今日来てまさに復旧しているのを見て言葉にならない。工場長を含め皆頑張ったんだなと実感した」と感慨をもらした。さらに「懸命に復旧に努め工場見学を再開することができた。熊本県内のお客様だけではなく、県外のお客様にも工場にお越しいただけることをスタッフ一同心からお待ちしている。多くのお客様がお越しいただくことが、地元熊本県への貢献となれば幸いだ。当工場はまだまだ完全復旧には至っていない。今後も温かいご支援をいただき、熊本県を我々も一緒になって元気にしていきたい」と語った。生産拠点としての重要度が震災前後で変わったかとの問いには「何も変わっていない。私どもにとっては九州唯一の生産拠点であり、重要性は全く変わっていないしこれからも熊本でしっかりと頑張っていく」と答えた。支援については「派手にやって寄付をして終わりではなく、出来るだけ細かな活動を継続していくことがすごく大事だと思う」とのべた。
山田社長は「本日はビール類の出荷に続き工場見学も再開できることになり感慨もひとしお。私は入社以来、長きにわたってビール一筋に歩んできた。ビールにかける気持ちは誰にも負けないと自負している。ここ九州熊本工場で生産するビール類製品、そしてサントリーグループとしての様々な活動を通して、熊本県の皆様と共に復興に向け取り組んでいく」と決意を示した。
橋本工場長は「幸い人的被害はなかったものの、天井や壁が崩れ、醸造設備や包装設備などの生産設備も損傷し、さらに場内道路の一部も隆起陥没し、生産活動や工場見学を休止せざるをえなくなった。しかしながら熊本県をはじめ九州の皆様に、もう一度最高品質のビールをお届けしたいという固い決意のもと、協力会社の皆様をはじめ工場のメンバーが一丸となって、6月の豪雨や、あるいは猛暑のなかも全員で取り組んでようやく昨年12月に『ザ・プレミアム・モルツ』の樽生、本年1月には缶の出荷を果たすことが出来た」と振り返った。
会見後、嘉島・御船・益城の3町長、サントリー食品インターナショナル・辻村英雄副社長が加わりテープカット。再開後初の見学者約30人が入場した。生産設備を見るたびに感嘆の声が上がる。試飲では「美味しい」「最高」と感激。「日本一、世界一のサントリーが地元にあるのは誇り。本当に復旧できるのか心配だった」と話す男性もいた。再開を喜び酌むビールの味わいは格別なものになったようだ。