酒販年金事件で小売中央会など強制捜査

2005年11月10日

 全国小売酒販組合中央会(藤田利久会長)の年金共済事業に絡む資金143億9000万円の回収不能事件に対し、11月8日、関係先へ警視庁捜査二課の強制捜査が入った。元事務局長らの業務上横領と背任容疑にかかわる捜査によって、どこまで、封印されてきた真相が白日のもとにさらされるのか。しかし今、明らかになっているのは2億4000万円の不正流用などで、144億の資金損失の“本丸”にはいまだ踏み込んでいない。ずさんな運営は、相次ぎ発覚する全国小売酒販政治連盟の使途不明金問題にも及び、現状の報道は政治問題として捜査の行方を追うものに傾きつつあるが、追求すべきはあくまで年金運営の実相に迫ることだ。個人責任として事件を葬るのではなく、中央会組織の問題としての責任追及は、今年10月下旬、地方支部長の刑事告発(刑法247条背任罪)によってなされており、同訴に基づく捜査の進展が望まれる。

 同訴による被告発人は現役員を含む7人。告発では、被告発人が任務に背き、「年金共済規程施行細則」(以下細則)違反を犯し、理事会の承認を得ることなく、クレディ・スイス社と信託契約を結び、平成15年1月7日34億7000万円、同年3月12日64億5000万円、同年5月2日44億7000万円、総額143億9000万円分のチャンセリー社債を購入し、同額の財産上の損害を与えた、と断じている。

 「細則」は第7章(資産運用)第30条(運用委託先)の項で、「委託先の信用度、運用能力を十分検討の上、その採用については理事会に諮る事を要す」「運用委託先間のシェア変更(委託金額の変更)については年金運用委員会で決定し、理事会に報告する事とする」と定めている。また第36条(権限)規程で、外部委託機関、新規運用機関の採用は、理事会の決定によるものとしている。

 被告発者については、投資話が金融ブローカーから持ち込まれたこと、その紹介・了解・指示の主体、契約時の共謀に言及。さらに、被告発人の現役員が、金融機関からの解散勧告を無視する形で、破たんする制度を継続するという意思決定へ重要な関与をしたとも指摘。背任罪は、基礎的事実として、手続き違背という明確な問題が存在していることからも、十分に立件が可能だとしている。

 さらに事件が、トカゲの尻尾切り的なてん末に陥ることを危ぐ。「本件は総額約144億円にも上る巨額背任事件である。被害者は組合員多数であり、その被害や社会的影響は極めて深刻である。一部の業務上横領のみが解明されればそれでよいという事件では全くない」と訴えている。

 告発人の支部長は、かつての年金委員会委員が、投資には関与していないとの弁明を繰り返すことに対し、「制度維持を方向付けし、その誤った行動が(犯罪を)誘引したことは明白」と怒りをぶつける。

 中央会にはこれまで幾度となく、方向転換をする契機があったにもかかわらず、資産運用が事後報告だけで先行し、そうした規程違反の常態化を黙認する組織の異常が犯罪を助長したことが問われている。さらに、組織維持のため、年金加入者を欺き続けてきたことを自戒すべきで、その罪も問われている。

 現執行部内部にも、問題の“関与者”が存在することは否めない。今後注視すべきは、そうした“関与者”にまで捜査が及ぶのかどうかだ。