三桝嘉七商店 「へぇ」と驚く清酒と柿しぶの関係

2008年12月04日

 清酒のにごりを取り除く清澄剤として利用されている柿しぶ。一般消費者は酒造りと柿しぶが結びつかず、どのように利用されるのかさぞ不思議に思うだろう。

 そもそも柿しぶとは、渋柿を搾汁して発酵し、長期熟成させたもの。柿しぶの主成分である柿タンニンは、タンパク質との強い凝集作用があり、酒類の製造工程で溶存し、白濁現象を起こす麹酵素タンパク質を吸着し、大きな凝集物にして沈殿させる。それを除去することで、酒類の透明度を向上させたり、混濁の発生を予防するのだ。近年では他の清澄剤の存在や、清酒の需要減少により、柿しぶの清酒製造での利用は減ってきているものの、それでも昔から柿しぶは、酒造りに欠かせない大きな役割を果たしてきた。それはなぜなのか。

 創業明治5年、日本で初めて無異臭柿しぶの開発に成功した三桝嘉七商店の三桝嘉嗣社長は、「もともと日本人は古くから柿しぶの持つ、素材を丈夫にする性質や、防虫・防腐・耐水性を利用し、酒造りでは酒袋の染料、木桶・酒具などへの塗料として使ってきました。昭和40年代から清澄剤としての柿しぶの需要が増加しましたが、長期間保存すると凝固するなどの問題があり、また特有のにおいのため苦手意識が強い方もいらっしゃいます。そこで弊社では、保存性に優れ、軽量で作業の負担を軽減し、柿しぶ独特のにおいも気にならない、淡色で顆粒状の柿しぶ製剤(商品名カキライト)を開発しました。おり下げ作業の効率化やおり下げ期間の短縮、コストの低減など、現代の酒造りに適した新時代の柿しぶとして評価をいただいております。このように時代や用途にあわせて進歩してきたことが、柿しぶが利用される理由です。またもう1つ、柿しぶの最も大きな魅力は、人体や環境にやさしい天然の産物であることだと思います。そんな柿しぶを安定して供給するために、弊社では契約栽培をはじめ生産農家との強い連携により、良質の原料柿を充分量確保できる体制を整えております」と語る。

“語れる酒”へ一歩前進

消費者の心をつかまえる清酒づくりを

 柿しぶの大きな特長は、主成分である柿タンニンが天然の産物であることだ。そして健康志向や環境への配慮の機運が高まる中、石油化学製品に代わり柿しぶの天然の効能が注目されている。高血圧、二日酔いの予防などや、強力な収れん作用に基づく“やけど”や“しもやけ”などの民間薬としての利用をはじめ、消臭効果を利用した食品や化粧品、最近ではシックハウスの原因として考えられているホルムアルデヒドなどの有害な化学物質を吸着・除去する対策にも利用されている。このように柿しぶの効能を利用した新しい活用方法が開拓され、さらに効能の可能性が研究されている中、健康や環境問題に関心の高い人々が、「柿しぶ」に興味を示す可能性は高い。

 おり下げを柿しぶで行うなど「柿しぶ」という言葉を前面に出し、日本人の暮らしの中でさまざまに利用されてきた柿しぶの効能、そしてイメージをうまく清酒にいかし、日本の文化や物語性を取り入れることが、清酒のPRにもつながるのではないだろうか。