ジェトロ熊本 熊本県産酒類の海外市場開拓で米国バイヤー招聘

2017年09月14日

 【熊本】9月4~6日、米国の酒類バイヤー3社の調達担当者が熊本県内の清酒と球磨焼酎の蔵元をめぐり商談会も開いた。ジェトロ熊本(日本貿易振興機構・熊本貿易情報センター)が「熊本県産酒類の海外市場開拓、震災復興に寄与すべく」招へいし実現した。「熊本地震からの創造的復興のためには海外市場開拓が有力な手段」との考え。事業を通じ輸出への関心が高まることも期待している。

 ディストリビューター「ワインコネクション」のモニカ・サミュエルスさん、サンフランシスコの日本食フュージョンレストランパブ「IZAKAYA」のスチュアート・モーリスさん、「モリモトレストラン」のエドワルド・ディングラーさん。3人とも九州は初だという。

 4日は県内清酒蔵3社、5日は人吉市・球磨郡の焼酎蔵3社を訪問見学。6日人吉市での商談会という日程。

 初日の4日、山鹿市の千代の園酒造(「千代の園」醸造元)では本田雅晴社長自ら蔵を案内した。米国への輸出は2000年ごろからで、ワインコネクションとは長い付き合いだ。販売では純米酒「朱盃」の売上げが大きい。娘が現地を訪ね営業活動をするようになってから、また一段販売が伸びてきたとの実感がある。

 豊前街道沿いの老舗酒蔵は威風に満ちた佇まい。地震被害は小さかった。自家精米にこだわり、大吟醸用だと磨くのに3日もかかる。一行が質問を重ねたのがコウジとコウボについて。酒母に関してはコウオントウカ(高温糖化)やキモト(生酛)の言葉も飛び出す。

 本田社長が「熊本酵母」を誇った。大方の酒を熊本県酒造研究所から直接購入の酵母で仕込む。「食事をより美味しくし料理の味を壊さない、長くじっくり飲める酒造りが当社のコンセプト」だと話した。

 志垣道廣製造部長も加わり麹室へ。焼酎製造も行う同社。白・黒・黄と話はめぐる。実は昭和30年代に造った白麹仕込みの清酒がある、と現物を披露した。貯蔵熟成50年以上で琥珀色。3人は試飲。「マディラみたい」「コーヒーのような味がする」などの感想をもらし驚き感動の様子だった。

 モニカさんは自社の日本酒売上げについて前年に比べ「23%伸びている」と話し小売店への売り込みなどマーケティングに自信を見せた。「家飲みも増え、しっかりした味のお酒が流行っている。舌が疲れない食中酒ですね」と嗜好の変化にも触れた。

 「大事に守らなければならない」。熊本県酒造研究所(「香露」醸造元、熊本市)は熊本酵母を培養し全国の蔵元へ販売している。協会頒布では「9号酵母」として知られる。地震では煙突が倒壊するなどの被害に見舞われたが、熊本酵母は健在。乾燥酵母として保存するなど幾重ものリスク管理で絶えることがない体制を整えている。

 貯蔵庫の損壊は酷く建替え。新築庫はほぼ完成している。昔ながらの蔵内や酵母培養室を森川智製造部長が案内した。大吟醸専用の洗米道具を見せた。目指す吸水率のためストップウォッチ片手の作業。酒造期に入れば繊細な職人技で満たされる酒蔵。そんなイメージを描くのに十分な説明だった。一行は麹の突破精(ツキハゼ)、総破精(ソウハゼ)の違いにも深い関心を寄せた。日本酒の味わいが形づくられる工程のすべてをつかむ探求心で満ちる。アル添をするのは「香りの成分がアルコールに溶け込みやすいから」。その意味を伝えた。

 「たっぷり熟成期間をとって出す熊本の酒。熊本の食べものとの相性が非常に良い」と誇った。テイスティングでは特別純米のぬる燗も試してもらった。アメリカの店では日本酒を200種類も揃え、燗温を変え提供しているというスチュアートさん。日本での酒造り経験もあり、ヒトハダカン(人肌燗)まで周知している。

 熊本市川尻の瑞鷹(ずいよう)は甚大被害に遭った1社だ。清酒醸造の川尻本蔵と、赤酒・焼酎醸造の東肥蔵があり、市販酒テイスティングが中心の応対となった。郷土料理に欠かせない熊本の伝統酒「赤酒(アカザケ)」の魅力にも触れた。