焼酎粕の可能性、再発見 鹿大「焼酎学講座」、第1回シンポジウム

2006年08月29日

  【鹿児島】焼酎粕で蛸壺(たこつぼ)をつくる。漁礁として活かす。エリンギの菌床にもなる--。焼酎製造に伴い生まれる焼酎粕を、有用副産物として、その再生を目指すシンポジウム“再生する焼酎粕、陸・人・海への有効活用”が8月11日、鹿児島大学郡元キャンパス稲盛会館(鹿児島市)であった。今春同大に全国で初めて開設された「焼酎学講座」の記念すべき第1回目のシンポジウムで、同大の主催。鹿児島県、鹿児島県酒造組合連合会、鹿児島県工業倶楽部、日本政策投資銀行の後援。来春には原則、海洋投棄が認められなくなる焼酎粕を、資源循環の視点から多方面へ有効活用していく事例が報告され、産学官が連携し焼酎粕の再生を摸索する気運を高める契機ともなった。
 当日は約350人が来場。終日、行政機関や研究者、実用化に取り組む民間企業の話に耳を傾けた。シンポジウムは同大永田行博学長の「焼酎粕の有効活用が、より地域社会への貢献となるよう目指していきたい」とのあいさつで開幕。基調講演2題(「鹿児島県における焼酎粕の現状と今後の課題」鹿児島県観光交流局かごしまPR課主幹・木場信人氏、「薩摩藩の焼酎とリサイクル事情」鹿児島大学生涯学習教育研究センター長・原口泉氏)に続き、有効活用の事例報告があり、総合討論「焼酎粕の有効活用に向けて、産学官の役割と機能」にまで及んだ。
 焼酎粕の取扱いに関しては、ロンドン条約96議定書(1996年)が26カ国の批准で今年3月24日に発効。日本国内では同議定書への対応から海洋汚染防止法が改正され、平成19年4月以降、焼酎粕の海洋投棄が原則禁止される。投入には環境大臣の許可が必要だが、許可申請には海洋投棄ゼロが前提の削減計画(最長5年)の提出などが必要で、安易に活用できるものではなく、抜本的な対策が求められている。
 平成17酒造年度の鹿児島県焼酎メーカーの焼酎粕排出量は48万1000tで、うち15万9000t(全排出量の33%)が海洋投棄処理の状況。13年度に比べ粕発生は1・9倍になったが、海洋投棄は1・2倍に止まり、陸上処理への移行努力も顕著だが、海洋投棄ゼロ達成への見込みは立っていないのが実情で、投棄の継続が与える業界、企業へのマイナスイメージを危ぐする声もある。
 今後の需要予測、それに伴う粕発生予測、新たな陸上処理計画を加味した19年度試算では、5万8000t(同12%)を海洋投棄せざるをえないとの数値も示された。陸上処理への移行、プラント処理による飼料や肥料への再資源化へは、粕排出の平準化も課題で、冷凍芋の活用なども提案された。
 焼酎粕の有効活用事例としては、“パイプライン・フィーディングシステム”(液餌給与システム)や、豆腐粕を媒体とした乾燥飼料化、きのこ菌床への応用、世界最高速のメタン回収技術--などがあり、芋焼酎もろみ酢や、粕からつくった入浴剤やせっけんなど、日常生活を潤す商品の開発も報告された。意外だったのが“海への有効活用”。養殖魚の飼料高騰の対策としての活用、また漁礁用コンクリートや蛸壺素材に粕を混ぜ、実用化を目指す動きが注目された。
 焼酎粕を出さない焼酎製造技術も紹介された。もろみ段階で固液分離し、それぞれに蒸留。固形部からは香気成分に富む芳醇型の焼酎を、液部からは香気成分の少ない淡麗型の焼酎を得るというもので、それぞれの蒸留残物から食品素材を製造する研究を進めていることも発表した。
 総合討論では、「焼酎粕は単なるカスではなく、さまざまなものに変換できる“宝の山”だ」「目からウロコの事例、発想ばかりだった」との共通した見解が聞かれ、カスという言葉がマイナスイメージを与えるとして、有価物であるとのイメージを想起させる新語を創ることも大切だとの意見もあった。「社会性のある普遍的なテーマは今後企業理念ともなるはずだ」として、関連事業者が資源化に積極的に取り組むことはもちろん、そうした活動を推し進めるためには産官学がボーダーを越えたパートナーシップを築くことが不可欠で、連携をはぐくむ母体を地域で醸成していくことが強く求められた。