鹿児島県本格焼酎技術研究会講演会 酒質多様化へ可能性

2011年08月03日

 【鹿児島】鹿児島県本格焼酎技術研究会(乾眞一郎会長、事務局・鹿児島県工業技術センター=霧島市)は7月15日、鹿児島市内のホテルで講演会を開催した。同会には県下の本格焼酎製造業81社が加盟。約150人が聴講した。

 冒頭あいさつで乾会長は「震災から4カ月が経つが復興は進まず、アルコールを含め消費も回復していない」と語るとともに、米トレサ法にも触れた。同法では7月1日以降に使用したコメの産地情報の伝達が義務付けられ、麹米を国産米に切り替えた蔵元がある。「震災で原料米の手当てに影響が出て来るだろう」と懸念を示した。

 今回の講演は2題。“焼酎の香りを追究する”をテーマに、鹿児島大学農学部附属「焼酎・発酵学教育研究センター」の髙峯和則准教授が、“ウスケボーイズ-日本ワインの革命児たち-”の題で作家の河合香織さんが話した。

 髙峯氏はセンターの前身、焼酎学講座で得た知見を基に研究内容を発表した。麹が香り形成に関与することを、黒糖焼酎とラム酒の比較で検証。ともにサトウキビ原料の蒸留酒だが、前者には米麹が使われる。「ラム酒ではバニラやカラメルといった甘い香りの評価が高い一方、黒糖焼酎では果実様な香りに加え、草様、硫黄様の評価が高く、複雑な香味を有す」。黒糖焼酎固有の香りとなる高級アルコールの生成に寄与するスレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシンは、黒糖よりも米麹に多く含有され、独特な香り形成に米麹が不可欠であると指摘した。

 芋焼酎の香りについては3つのキー、①テルペノイド化合物②ローズオキサイド③β-ダマセノン--が挙げられた。

 芋焼酎らしい香りに関わる成分、テルペノイド化合物は、原料となるサツマイモの表皮や両端部分に高濃度で含まれている。「皮部分で仕込んだ焼酎は、ゲラニオール、ネロール、リナロールの含有量が多く、中心部で仕込んだ焼酎の含有量とは2~3倍の差があった」。結果として“皮仕込み”では、華やかでフルーティーな香り、甘くキレがある味の焼酎になった。一方の“中心部仕込み”焼酎の香りは軽快でソフトなものになった。

 ローズオキサイドは、バラの香りの成分で、香り立ちの良いグリーン系の香気を発する。発酵過程において、モノテルペンアルコール類のうち、シトロネロールからのみ、ローズオキサイドに変換され、蒸留工程で促進される。ゲラニオールからシトロネロールへの変換効率は、酵母により差異が見られた。変換効率の高い酵母の育種によって、ローズオキサイドを増やすことが可能になる。

 β-ダマセノンは芋焼酎の甘みに寄与し、1ℓ当たり10~115μg含まれる。濃度に影響するのが蒸留時間。40分だと26μg/ℓだが、300分だと90μg/ℓ、3倍以上に増加した。酒質は大きく変わる。

 総括のなかで、「醪のpHを変化させると、酒質も変えられる」との提案もあった。低pHだと「モノテルペン、ローズオキサイド、β-ダマセノン濃度が高く、柑橘系で華やかな酒質」になる。高pHだと「香気成分は低く、柔らかで蒸し芋香が特徴の酒質」となる。

 “ウスケボーイズ--”は河合さんの著書。ワインの造り手の苦闘に迫ったノンフィクションだ。講演は、酒類が農産物加工品であることを改めて意識させ、自然を畏(おそ)れ酒造りへ真摯に向き合う姿を問うた。

 ウスケは、日本ならではのワイン造りに情熱を傾けた麻井宇介氏のこと。教えを受けた、ボー・ペイサージュ(山梨県)岡本英史氏、城戸ワイナリー(長野県)城戸亜紀人氏、小布施ワイナリー(同)曽我彰彦氏、3人のウスケボーイズの生き様に迫る。

 麻井さんが残した言葉、「たかがブドウ、たかがワインであろうと、髪振り乱し必死に取り組む人がいるか、いないかが帰趨(きすう)を定める」。3人は日本の気候はワイン造りには向かないと言われるなか、ブドウ作りから始めた。収入もなく生易しいものではない。家族も失った。

 「ワインは土地の風景を映すもの」。麻井さんは外国の真似ではなく、日本なりのワイン造りを求めた。常識を捨てろと諭した。ボーイズは、海外の銘醸ワイナリーの造り手の言葉に打ちのめされた。どうして美味しいのかの問いに「太陽のお陰」と答えた。

 3人のワインは今、消費者や飲食店から、「ワインから造り手の姿が目に浮かぶ。景色が、季節や息づかいまでが伝わってくる」と支持されている。「飲むことも買うこともワイン造りの一環だ」と価値観を共有する関係にある。「今は造り手と消費者が疑い合っている」との河合さんの言葉は、双方の良心を問うようにも聞こえた。