若潮酒造醸造 「隠し玉」取扱い店集う

2008年11月19日

  【鹿児島】酒販店が、芋焼酎の仕込みに使うサツマイモとコメの栽培にかかわる「木樽蒸留『千刻蔵の隠し玉』(手造りかめ壺仕込み)」(醸造元・「さつま若潮」若潮酒造(株)=志布志市、下戸直一社長)。その仕込みに使う芋を取扱い酒販店が収穫したり、焼酎造りの現場に触れる会が11月1日に催された。

 千刻蔵は2003年9月に操業を開始。甑(こしき)による麹米の蒸し、もろ蓋を使う麹造り、一次二次仕込みともに甕仕込み、木樽蒸留、かめ壺熟成--という手造り一貫の焼酎蔵。蔵名には、製造量は千石(=千刻)を上限とし、焼酎造りの精神や焼酎文化を未来へと継承する時を刻む決意が込められている。「隠し玉」はその蔵の造りにのっとり、麹米に酒米のレイホウ、原料芋に金時を使い仕込んだものだ。販売開始は06年12月。現在、全国約10店の酒販店が取扱っている。

 当日の会には、遠くは北海道の取扱い店を含むほぼ全店が参加。志布志市にある千刻蔵で造りの現場に触れたのち、金時芋が栽培されている同市内の畑に向かった。

 会では冒頭、下戸社長が「製造のキメ細かなところまで話し合っていきたい」と語り、販売店と密に連携を取りながらの「隠し玉」育成へ理解を求めた。蔵では造りの全貌に触れ、櫂入れなども体験した。木樽蒸留機から垂れる焼酎について、意見交換する姿も見られた。

 畑は山あいにあって、決して独りではたどり着けないような場所だ。志布志町田之浦。栽培を担う農家、山迫洋一さんが一行を迎えてくれた。サツマイモは手掘りでは間に合わず、ハーベスタ機械の一種“ポテカルゴ”に乗り込んでの収穫。土の中から続々と肥った金時がすくい上げられる。芋の大きさに驚く参加者。店に飾ればインパクトがあるなど、畑に立つことで販促へのさまざまなヒントを得、売り込みの意欲が増していく。

 情報交換の場には、下戸社長はじめ経営幹部、製造責任者が揃い、「隠し玉」取扱い店との対話を重ねた。これまでの販売実績や在庫の状況、今酒造期の製造計画が説明され、取扱い店からは「隠し玉」を商材として育成する上で、また蔵元の経営に資する上では、取扱い店を増やした方がいいとの意見や、逆に価値観の異なる酒販店を取扱い店とすることで商品価値が下がることを懸念する意見が見られ、「隠し玉」の今後について本音の声が交わされた。商品開発の段階からかかわる地元の井手酒店(鹿児島県鹿屋市)代表の井手孝一さんは、「育てる気がなくて、ただ抱き込んで銘柄を揃えるのじゃ続かない。育てる価値観を共有できる酒販店なら、共に手を携えていきたい」と訴えた。

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 会の翌日には、NHK「おーい、ニッポン~私の好きな・鹿児島県」の放送で同蔵が生放送されるとのことで、一行は放送対応にも追われた。同番組で焼酎蔵が取材されるのは、7年前に幻ブランドの銘醸蔵以来、7年ぶりとのことで、下戸社長は、「隠し玉」はもとより、米や芋の栽培、焼酎造りに障害者がかかわる「夢しずく」、地元小学生がかかわる「野神」もアピールしたいと話した。