【福岡】日本酒の蔵元、若竹屋酒造場(林田浩暢代表、久留米市田主丸町)で、飲食店関係者の酒造り体験が続いている。橋渡し役は県内の酒販店。醸される日本酒の価値観を、造り手と売り手が共有し、その魅力を消費者へ伝える力をはぐくんできた。
中心となる酒販店は3店--住吉酒販(庄島真一代表、福岡市)、とどろき酒店(轟木行男代表、同)、力丸酒店(藤本重高代表、北九州市)。蔵で手仕事の一端に触れてもらうだけではなく、仕込みに使うコメの田植えや稲刈りを体験する機会も設けている。酒販店・飲食店関係者が共に、毎年の体験を楽しむ。
1月24日には、とどろき酒店の得意先飲食店の関係者約30人が参加し、原料米の麹室への引き込みや盛り、醪へのかい入れ、洗米・浸漬などの作業を体験した。作業に入る前、蔵元の林田さんは参加者へ言葉をかけた。「コメの温かさとか重さ、水の冷たさ、そのなかでお酒が造られていくことを感じてほしい」。
盛りは蒸して種付けされた200㎏を超すコメを、一つの山にしていく工程。洗米・浸漬にあたったコメは、大吟醸酒の仕込みに使う精米歩合38%の山田錦。浸漬時間はきっかり4分10秒。横尾正敏杜氏の指示に従い、緊張の仕事もやり遂げた。蔵元にとっては吟醸酒を仕込む大切な時期。そのなかで、仕込みを体験してもらう。やり直しの利かない真剣勝負の瞬間に立ち会ってもらう。かかわる人同志の信頼関係が、そこにはある。
当日は初めての企画として、味噌造りにも挑戦した。参加者が店で出す料理にも活かしてもらえれば、との発想。参加者は後日、酒の搾りも体験し醸された酒を味わう。そして、仕込みにかかわった特別な酒が、各々の飲食店で提供される。とどろき酒店の安陪成章さんは、取り組みが5年目を迎え、大きな手ごたえを感じている。「(参加の飲食店では)日本酒を売りづらいとか、扱いづらいという所を超えてきた。机上では分からない、蔵の寒さとか水の冷たさ、コメの温かさを感じることで、アピールの強さが全く違ってきた」との実感がある。参加者の一人、若い男性は「仕込みのお手伝いをさせていただいたお酒は、お客様に伝わる」と話した。
林田さんは、「飲食店、酒販店、蔵元は、お互いを利用し合うものではなく、三角の密な関係が(酒の価値や魅力を伝える)好循環を生む」と語る。パートナーの関係が、3者にとってかけがえのない宝のように見える。