【鹿児島】鹿児島県本格焼酎技術研究会(宇都建夫会長)は7月10日、鹿児島市内のホテルで平成21年度第1回講演会を開催した。同会は県下焼酎メーカーの技術交流を目指すもので、当日は約150人が出席。2題の講演--焼酎づくりの魅力や今後の革新へ新たな視点で迫る“科学と芸術の両面から醸造を見る”(鹿児島大学農学部「焼酎学講座」醸造微生物学研究室教授・伊藤清氏)、業務用市場における焼酎事情を伝える“景気悪化を生きる居酒屋と焼酎の課題”(飲食文化研究所代表取締役<飲食業専門誌「繁盛できる」編集長>立山雅夫氏)--を聴講した。
冒頭あいさつで、宇都会長は「当業界は不景気に強いといわれてきたが、(需要が)安い酒類へと推移するなか、甲乙混和焼酎が伸び脅威だ」と語り、経済環境の悪化が逆風となって、本格焼酎の需要が減退することへ危機感を示した。
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伊藤氏は講演を通じ、本格焼酎を取り巻く環境変化は、自らの価値を見直し提案力を強める好機ともなるとの見方を示した。例えばスローフードを支持する動きは、スロードリンクである本格焼酎への追い風となる。
“Wine-bottled poetry”(酒-瓶に詰められた詩情)--。数年前に科学雑誌「Nature」に掲載された文章に触発された伊藤氏は、「酒造りは科学的・工学的に追求していかなければならないが、それだけでは魅力に欠けたものになる」と語る。
「醸造は周辺が進歩しただけで根本は同じ」だと指摘。醸造の主役は微生物であり、その微生物の多様性は遺伝子が異なることから生じる。「何となく似ているが同じではない親子のようなもの」。酵母は16対の染色体から成り、分裂過程で6万5000通りにもなる。「遺伝子はダイナミックに変化する。遺伝子を構成するDNAを変えることが育種であり、醸造微生物は家畜のようにじゃんじゃん変わっていく」。
だから、「研究の進歩は、画一化を招かない。技術の真の成熟は、個性を発現させ多様化を可能にする」。新たな個性の創出は、コンピュータのなかで“バーチャル醪”を観察するような試験醸造によっても促されるだろうとの考えも示した。
一方の芸術的視点。「醸造が、他のバイオテクノロジーと大きく異なるのは、品質の他に、歴史・伝統・風土等の付加価値が重視されること。日本には独特な清酒・焼酎酵母が存在し、醸造微生物にも地域性がある。杜氏の流儀や酒質の特徴など技術にも多様性が存在する」。本格焼酎は伝統的な食、スローフード(ドリンク)の代表格でもある、と。総括し、「巧妙・精妙だが遊びがある。変化を取り込む柔軟さ、自己を守るためのムダが必要。将来はあたかも洋服屋で生地や色柄やデザインをオーダーするように、好みの焼酎のデザインがより自由にできるようになるかもしれない」。価値があるからこそ伝えられてきた伝統を守りながら、自由な発想と革新を求めた。
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業務用市場での冷え込みも伝えられる本格焼酎。「今年5月出荷量で麦焼酎を超え、1-5月累計でもほぼ並んだ」芋焼酎だが、課題も大きいと指摘する立山氏。業務用市場では、ビール会社の1000人規模の営業力と戦わねばならない。飲食店との取引をひっくり返し合う「オセロゲームのような戦い」にも直面すると予測したうえで、全国の飲食店へのアンケート調査から得た結果から、鹿児島県の芋焼酎メーカーが強化すべき施策を導いた。「品揃えで重視するのは、①蔵元の姿勢②品質の安定性③安定供給④香味。それらを伝える力が問われている」。
造り手の思いを伝えることは、ビールメーカーにとっては苦手なウイークポイントだとも話した。
価格への対応も急務。立山氏は数店の飲食店経営者から同じ不満があったと打ち明けた。「720mlボトルに割安感、お得感がない」。不景気から客単価は3000円から2000円へダウン。うち4割が酒に使うお金で800円。400円でビールを飲んだ残り、400円を他の酒が取り合うなかで、メーカーの対応は遅れているとした。
アメリカのチェーン理論は通用しなくなった、との持論も。特に造り手の思いや商品の価値を伝える必要がある本格焼酎の販売においては、お客さんと人間関係をつくることができる、さらに飲食をリードする女性客をつかんでいる、そんな“接客ができる店”がキーワードになる。そういう店でなければ、本格焼酎の独特の価値は伝わらない。「『芋、麦…甲乙混和…』、そんな(原料ジャンルの)注文で終わるようでは、大手チェーン店が勝ち、居酒屋はおもしろくなくなってしまう」。本格焼酎メーカーと居酒屋は、共生関係をつくってほしいという思いを訴えた。
さらに、ハイボールの流行にも着目。割材を嫌ってきた業界に対し、「香り高い紅芋系焼酎のトニック割での提供もおもしろいのではないか」との提案も。「黒糖焼酎のあるべき姿」を問う質疑に対しては、「(消費者は)蔵元、その地元をイメージしながら飲む要素が大きく、地元の黒糖を使っているかどうか、ということになると思う。地元産黒糖の比率を上げていくことが課題」だと応えた。酒質面では香味のバリエーションの広さ、今後の貯蔵ものへも大きな期待込めた。