【福岡】田に植えられる酒造好適米・雄町(おまち)の早苗。6月14日、前原市で70人もが参加して賑やかに田植えが行われた。20年前、この地に雄町はなかった。雄町は「可也」(かや)という純米酒になる。多くの人に支えはぐくまれてきた日本酒である。
20年ほど前、酒造好適米・山田錦の一大産地、福岡県糸島地区で酒販店「きはら酒店」(福岡市西区周船寺)を営む木原満一さん(現52歳)は栽培が途絶えていた雄町の復活を願い、前原市飯原の農家、波多江利光さん(現74歳)と種もみの入手から始め、二人三脚で歩み始めた。数年をかけ酒造原料になるだけの収穫量を確保し、県内の銘醸蔵、高橋商店(「繁桝」醸造元・高橋信郎社長=八女市)に醸造を依頼。そうして平成3年、「可也」発売へと至る。
消費者をはじめ、飲食店・酒販店関係者、蔵元、生産農家が共々に、米作り酒造りにかかわる取り組みの先駆け。立ち上げた“美味い酒づくりの会”では、田植え・稲刈り・酒造り・蔵見学(新酒披露会)という節目の時を共有し、それが1年のサイクルになっている。
その20年目のスタートが14日の田植え。田んぼには参加者が作ったのぼりが立てられ、お神酒を奉じた田に丁寧に早苗が手植えされていく。なかには幼子の姿も。「20年前に、これぐらいだった子はもう成人している。その人が今度は自分の子供を連れてきて…」と時の長さ、人の交流の深さに思いを馳せる木原さん。波多江さんも「よう続いているよねぇ」と賑やかな田植えの様子に目を細める。福岡市内から参加の男性は、「田植えや稲刈りで米作りを体験させていただくことで、お酒がますます好きになった。雄町のお酒には独特な味があって、『可也』以外の雄町のお酒にも興味がわいてきた」。20年も続くのはなぜかと問うと、「誠意と情熱の世界だから」と短く答えた。
蔵元の田代裕典常務によると、「可也」は同社が雄町で仕込みに挑戦するきっかけになったという。「継続は力」とも。
同地で雄町栽培の定着にもつながった取り組み。「可也」の取扱い酒販店は県内12店。今年も生産農家2戸が雄町を見守る育てる。
「可也」をはぐくむ“美味い酒づくりの会”が、厳密な会員組織ではないことも継続を助けているのかもしれない。田植えなどの案内は、酒販店や飲食店を通じ行われたり、お客さん同士の口コミであったり。関心があれば、だれでも自由に参加できる。お酒の購入も自由だが、参加意識は年々高まり、新たな参加者が絶えないという。
田植えが続くなか、木原さんは妻の真由美さんや加勢の人たちと一緒に、参加者に振る舞う料理を手づくりで準備していた。「年を経るごとに、参加の方々の、もっと『可也』にかかわっていきたいという思いが強まっているように感じる。私たち酒屋にとっても、1本1本の重みが違う。『可也』というお酒で人と人がつながっていることが、何よりうれしい」。