沢の鶴の西村隆治社長は6月20日、大阪酒販組合業務用会総会で「日本酒の需要振興について」をテーマに講演を行い、低迷の続く日本酒市場の復権に向けて、業界が取り組んでいる活動と、今後の展望について話をした。講演の要旨は次のとおり。
日本酒の出荷は平成19年(平成19年4月-20年3月)で374万8000石、前年比96・4%という残念な結果になった。最盛期の972万石と比較すると4割を切る状況。酒類全体に占めるシェアも、かつては38・5%あったが、現在は7・3%と前年よりも0・2ポイント減少している。日本酒造組合中央会では「國酒」である日本酒のシェアを、なんとか1割に戻すことを目標にしているが、非常に厳しいのが実状だ。
長期にわたる低迷から脱していくためには、どうしたらいいのか。
低迷が続いている要因には、4点の理由が考えられる。第一に品質の問題がある。特に戦中・戦後の日本酒が不足した時代に生まれた三増酒が、日本酒の需要にマイナスにはたらいた。平成18年の酒税法改正と承認基準の変更で、三増酒は日本酒から除外されることになり、これによって今後の日本酒は確実に品質が向上していくことになる。
この理由については、醸造酒である日本酒は、米由来のアルコールが、全体の半分以上を占めなければ(50%ルール)やはりおかしい。業界としては大きな反発もあったし、犠牲も強いたわけだが、今後の日本酒にとっては必ずプラスになると思っている。
第二に、平成元年(完全撤廃は平成4年)の級別廃止によって、日本酒の選択基準が無くなったことも、大きなマイナスになった。それまで、級別を目安に商品選択をしていた消費者にとって、何を目安に日本酒を買ったらいいのか、その基準が無くなってしまった。特定名称酒の制度が導入されたが、まだ日本酒全体の25%までいかない。これは大きな失敗だったと思っている。
第三が価格破壊の問題だ。酒販免許の自由化、流通の変化、DSの増加などにより、価格破壊が進行したことで、価格に対する信頼が薄れ、消費者が混乱している。
第四が飲酒運転の取り締まり強化の問題だ。一昨年8月の福岡の幼児3人の死亡事故以来、飲酒運転に対する取り締まりや、罰則が強化されたことが、その後の日本酒の需要期に向けて、大きなマイナスとなった。当時は日本酒に復権ムードが出てきた時期だけに、最悪のタイミングでのできごとだった。
こうしたマイナス要因を、いかに克服していくか。それが日本酒の復権にとって、重要なポイントになる。特に級別の復活ができるかどうかは、日本酒復権に大きな要素となるが、非常に難しいのが実状だ。ただ、伝統的な酒類には、何らかの型が必要。フランスワインにAOCがあるように、日本酒にも商品選択の基準となる型が必要ではないか。
こうした要因に加えて、酒類市場は少子高齢化、若者のアルコール離れなど、さまざまな問題が山積している。特に日本酒の需要開発には、若者に飲んでもらう商品開発が必要だが、そのためには、まず「食育」から手掛けていかなければならないと考えている。食生活の洋風化によって、家庭で和食を食べてこなかったのが、今の若い世代。そういう世代に、健康食である和食を食べてもらうよう「食育」を行い、同時に日本酒を飲んでもらう。遠大な計画だが、それくらいの手間をかけなければ、日本酒が復権するのはあり得ないと思っている。
今、日本酒業界がどのような提案で、日本酒復権に向けて取り組んでいるかを紹介したい。
その一つが「日本酒で乾杯推進会議」による、日本酒で乾杯運動だ。現在兵庫県では年間300におよぶ会合のすべてで、日本酒での乾杯を実施してもらっている。来月には洞爺湖サミットが行われるが、この会場でも乾杯は日本酒でしていただけるはずだ。こうした国際会議の場で、日本酒で乾杯をしてもらうことで、日本酒の素晴らしさが、世界に浸透していくことにも期待をしている。
こうした日本酒で乾杯運動の中核となって活動しているのが、「日本酒で乾杯推進会議」だ。この組織は日本文化全体をよくして行こう、という運動の一環で、現在会員数も1万4000人を突破した。目標は3万人だが、十分達成できるという手応えを感じている。現在、近畿地区の会員は3200人で、このうち2000人が兵庫県だ。大阪は300人と非常に少ないので、ぜひふるって参加していただきたいと思う。会費も必要なく、日本酒に関するさまざまな情報が、提供されるというメリットもある。
最近よく「日本人には日本が足りない」という言葉を耳にする。日本酒で乾杯運動を通して、こうしたことを考えるきっかけになってもらえればと、考えている。
日本酒業界では、このほかにも健康にもいい「和らぎ水」、味のバランスがよく日本酒が飲める「湯煎燗酒」、大手メーカーが中心になった「日本酒心美体」などの活動を行っており、こうした活動がいずれ需要に結びつくものと信じている。
最後に料飲店での日本酒販売について、こうした点を是正していただければというポイントを述べてみたい。
まず、料飲店での日本酒の販売価格を、もう少し安くしていただければと思っている。現在の価格では、なかなか若い人たちは料飲店で手軽に日本酒を注文するわけにはいかない。
次に、日本酒を飲んでもらうことで注文する料理が必ず一皿増えるということを、もっと啓もうしていただきたい。日本酒は料理が進むお酒で、炭酸の入っている酒とは異なり、お腹がふくれることもない。
3点目は、日本酒の保管に留意をしていただきたい。ワインなどは十分に気をつかって保管しているのに、日本酒は温度の上がる場所に置きっぱなしという例をよくみる。
これらの点を業務用酒販店の力によって、ぜひ改善していっていただければと思っている。