「酒 髙蔵」インタビュー 一歩進んだ店の取組み

 「酒 髙蔵」は、インターネット「楽天市場」「ヤフーショップ」上で人気の梅酒専門店「梅酒屋」の実店舗。現店主の上田久雄さんは、8年前の24歳の時に3代目として店を継いだ。消費の低迷と量販店の参入で、酒販店をめぐる経営環境がますます厳しさを増していた当時、廃業も選択肢の1つという中でのことだった。

 「祖父の代から培ってきた店の歴史・存在を否定してしまうとこが寂しいという気持ちの部分が強く、こうすれば経営を変えていけるというようなものは、なに1つなかった」と話す上田さん。それでもまず一番に取り組んだのが、できないことはやらず、できることだけやるということだ。近隣のコンビニやディスカウントストアと利便性や価格を競いあっても勝てないのは分かっていた。だから「地域に根差した酒店」という方向性を定め、周囲の高層マンションに移り住んできた30歳前後の共働き夫婦世帯をターゲットとした店づくりを始めた。

 店内に足を運んでもらうために自動販売機を無くす。自らの足で蔵元を訪ねて納得した商品だけを取り扱う「蔵元特約酒 専門店」というスタイルを打ち出し、日本酒・焼酎それぞれ3~4銘柄の限られた商品を丁寧に売る。“普段は互いに仕事で忙しくても、週末には新しいマンションで一緒においしいお酒を”というターゲットへのライフスタイルの提案にあわせて、スタッフ、商品の配置や、店内の音楽、雰囲気などを1つ1つ変えていく。それでも結果がでるまでに3~4年かかり、その間は店の存続を危ぶむ経営状態が続いたと言う。

 「急に専門店になれるわけではなく、結果が出るまでには手間も時間もかかります。それでも“ぶれない気持ち”があったから続けられた。それが理念やポリシーというものでしょう」

 「私の場合は、いろんなことに手を出しすぎないこと。その道のプロがいて、自分たちがやらなくてもいいことは、やめるように決めました。配達をやめ、ビールも置いていません。そうすると、やらなければならないことが明確になる。単純にそれだけですが、1個何か形になると、うまくいく感覚はわかってきます。もし失敗しても、元に戻ってやり直せばいい。やった経験・感覚は全然無駄ではなく、財産となって自分に残りますから」

 同店の魅力は、例えばラッピングに風呂敷を使い、包み方を数パターン用意したりと、従来のサービスにアレンジを加えた新鮮さにある。上田さんは「お金もネットワークもなかったから、決して特別なことではできませんでした。工夫といえば見せ方を変えただけ」と言うが、それらがターゲット層の心をつかみ、口コミなどで広がっていった。

基本はコストオンの考え方

 梅酒に関しても、その期間で得た経験・やり方をそのまま適用した。まず小さな地元の酒蔵が減っている、いいお酒がなくなる現状をなんとかしたいが、できないことを無理してやるのではなく、まず自分たちに何ができるのかを考える。その時に、関西の風土を現すイメージと結びつき、それ自体が価値を確立している“梅”を使った梅酒と、不特定多数の人々に情報発信できるインターネットにつながった。

 扱っている商品は、酒蔵・酒販店・消費者の意見が三位一体となって反映されているのが感じられるものばかり。例えば3年間の熟成期間を置いてから飲む梅酒で、インテリアとしても飾れようにした商品(写真1)や、砂糖使用と不使用を飲み比べる試験管の瓶にいれた商品(写真2)。これらには味わいとともに、飲みながら話せる、楽しめる付加価値があり、その付加価値に払う値段は消費者の価値観が決める。インターネットが情報受信者の間口を広げたことで、何十、何百人中1人の、その付加価値を需要とする消費者につながり、はじめに価格ありきではなく、原料・造り方・ボトルなど、使ってみたいと思うものを試すコストオン方式が可能となった。そのことがますます商品の可能性を広げていく。

 重要となるのは情報のフィードバック機能だ。上田さんは特に情報の受発信を高める工夫として、携帯で会員登録をしてもらい、新商品や試飲会の情報を流すとともに、その試飲会で直接商品の感想を聞きあい、酒蔵・会員共に商品のリアルな展開が感じられるようにした。情報が循環し、より広がりを持っていくところに「やりがいを感じる」と上田さん。彼にとっての梅酒の位置づけは、他社と優勝劣敗を競うものではない。一番の基本となる思いはのは、小さな酒蔵でも梅酒が1つの柱商品となることで、年間を通して商品を造れ、存続していけるようになることだ。業界として、もっと目を向けていかなければならない問題といえるだろう。

 大きな成果をあげている上田さんが自らを振り返り、「特別なことはしていない」「できるのにできてない課題がまだ山積みだ」と繰り返す。小さいことは、弱いことではなく、やるかやらないかを軸に考えると、外的要因に責任添加しなくなる。当たり前にあるから見えていない足元の価値に目を向けること。1つのことをやり続けることが、後に広がりを見せてくれたり、人脈に繋がっていく。その展開していく可能性の豊かさを、同店は体現しているといえるだろう。

(掲載日:2008年02月05日)

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