全九州小売大会

2016年12月08日

 【長崎】「全九州小売酒販協会」(古藤弘武会長=佐賀県小売酒販組合連合会会長)の第58回大会が11月25日、長崎市の稲佐山観光ホテルであった。今年5月、改正法(「酒税法及び酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律の一部を改正する法律」)が成立後の大会。施行細則は未定ながら廉売に苦しめられてきた業界にとって期待は大きく、閉塞感は薄まった。酒類販売管理研修の義務化は、業界へ不備のない対応を求めるもので、課題も指摘された。採択の大会決議に「今回の法改正が真の国民利益となるよう、日本社会に根差す業界団体としてしっかり提言する」と明記した。

 大会は“九州は一つ”の理念のもと業界発展や難局打開を目指すもの。中央団体トップの情勢報告があり、質疑や提案が出される。今大会には九州7県小売組合の役員や事務担当者ら約160人が出席。講演「長崎よもやま噺」(長崎歴史文化協会理事・山口広助氏)もあった。

 中央3団体の代表▽全国小売酒販組合中央会(中央会)=坂田辰久会長▽全国酒販協同組合連合会(全酒協)=吉田精孝会長▽全国酒販生活協同組合(全生協)=水元義則会長が臨席したほか、来賓として福岡国税局・並木稔局長、同局・池田政彦酒類監理官、熊本国税局・前田浩行酒税課長、長崎税務署・緒方嘉祐署長、長崎県・中村法道知事(代理)、長崎市・田上富久市長(同)、長崎県酒造組合・山下芳生会長、長崎県卸酒販組合・光冨英造理事長、県内酒類メーカー、ビールメーカー支社支店等代表らが臨席した。

 長崎大会はスローガンを「真に国民の利益となる酒類販売環境の早期実現!」、大会統一テーマを「九州はひとつ今こそ平成維新の旋風を」とした。開催主管・長崎県小売酒販組合連合会の廣瀬範三会長は「大会は58回を迎え還暦間近。私たちの組織も50余年の歳月を経過し箍(たが)を締め直さないと明日はない」と訴えた。協会古藤会長は「5月には法律の一部改正法が成立し、これから我々にとって中身の濃いものとなることを楽しみに待っている。そうすれば厳しいなか明かりが見えてくる」と話した。熊本地震に関し、中央3団体代表が被災地を訪れ見舞金を直接渡したこと、3団体の会長名で義援金募集をいただいたことに改めて感謝の言葉を述べた。「九州7県の方にも温かい気持ちで義援金を出していただき、本当に業界の仲間意識はまだまだ残っていると痛感した」と明かした。

 中央情勢報告などに立った坂田会長は、大正2年創業、(東京)町田市にある酒店の3代目。冒頭「日頃より未成年者飲酒防止、飲酒運転根絶に大変ご尽力いただき、九州で行われるキャンペーンには、大勢の高校生が参加、またパレードなど積極的な取組をされていると聞いている。大変有難い。未成年者には絶対売らない、飲酒運転はさせない、ということは酒屋としての使命だと思っている。一層のご尽力ご協力をお願いしたい」と語った。

 酒販年金に係る民事再生手続きは、裁判所による再生計画認可から3年を経過。「7月4日に民事再生の還付期間が終結した」。基本計画に基づく弁済は「1万4894名の債権者へ、総額9億1511万1191円すべての弁済を完了している」。訴訟もすべて終結していると報告し「新たな気持ちで務めて参りたい」と話した。

 5月27日改正法成立に関しては「上程には紆余曲折ありほとんど2年間綱渡りの状態だった。我々が強く要望してきた公正取引のルールづくり、酒類販売管理研修の義務化が盛り込まれた。端的に申し上げ、このように明らかな規制強化は今の社会の潮流に逆らうことだ。成立までに我々中央会、政治連盟の役員、事務局はまさに靴底を擦り減らせる活動をし続けてきた。そして全国の組合員による地元の議員への直接の訴えが先生方を動かし、全会派一致の結果を生んだ。まさに全国一丸となり問題に立ち向かい、ゴールではないが一つの大きなことを成し遂げることが出来た」と振り返った。

 「現在、国税庁においては来年6月の施行へ向け、公正な取引の基準の策定が行われている」。ポイントは2つ。1つ目は、総販売原価を下回る価格が基準の対象。「総販売原価とは仕入原価に販管費等を加えたもので、これを下回り酒類販売業者に相当程度の影響を及ぼす恐れのある取引を基準の対象とすること」が明記されている。2つ目は「不当廉売に陥りやすい事後リベートの禁止。リベートは供与の基準が明確で、相手方に事前に示されていることが必要とされている」。

 「来週28日(11月28日)には自民党議連を開いていただく。法施行のスケジュールを考えると、議連としては基準検討の最後になると思う。行政サイド政治サイドに対する執行部と事務局による水面下での活動も深刻に行われている。平成15年の規制緩和閣議決定以降、漫然と続いてきた不公正取引の改善等について引き続き財務省、国税庁、公正取引委員会等、各方面へ強く求めていく。地域のために役割を果たしている我々がしっかりと創意工夫し頑張れば商売を続けられるような環境にしなければならない」。

 研修義務化で全国約8万人の未受講者が来年受講することが見込まれている。各研修団体においては「しっかりと受け入れ態勢を整えるとともに、受講料の適正化をお願いする。国内でも数少ない法令で義務化された研修だから、その講義内容の充実と研修受講料の公正性は対外的に説明のつくものでなければならない」と強調した。

 研修受講料については「組合員と非組合員の受講料の差があってしかるべき、場所代や使用機器のコストをしっかりと受講料に乗せ、説明のつく差をきちんとつけて。どういう方法があるかについては、ご相談いただきたい。そのほか講義内容の充実、講師不足への対応等、最大限の支援を行っていく」とした。

 質問への回答もあった。「研修講師の権限の強化を求めてはどうかという意見がある。中央会も税制改正要望書に、現在予算をつけて一般の方を任命している、酒類販売協力員について、知識を有する小売酒販組合の活用を求めている」とした。

 研修義務化のメリットを語った。「開催回数ベースで全国シェア8割を占める組合の社会的地位の向上につながる。全国8万人の受講者が研修を受けることになるわけで、小売酒販組合にとっては財政基盤の安定化を図るチャンス。今後は研修の質や内容についても一層中身のあるものにしていく努力が必要だと思う」。

 組合加入勧奨パンフレットの作成を予定しているとも。「法改正が成されたのでその内容を反映し、地域とのつながりの深さや活発な活動が、初めて酒販組合を知る方にも伝わるものを現在作成中」だという。関連し「組合でもネット環境を整えていただき、例えば中央会で作成するパワーポイントが更新された際にはすぐに採り入れる等、スピード感を持った対応が求められる。加入勧奨にもつながるので是非お願いしたい」と要請した。

 今は法の施行内容が決まる正念場とも。「実りある基準には、政治サイドの介入が不可欠で、法律の最も重要な中身の検討の時である今こそ本当に大切で、実効性のある基準へ向けた働きかけを行っている」と一層の支援を求めた。

 改正法成立により高まっているのが廉売抑制。宮本繁巳氏(熊本県)が安売申告を全九州レベルで高めるべきだと質した。同時に九州協会の役割を問うものだ。「申告をしないと公正取引委員会は、九州は安売りされるのをあきらめている、認めていると考える可能性がある。九州協会が何の指導もしないのは、九州協会が安売りを容認していることになるのではないか。せっかく九州は一つの掛け声のもとに九州協会が存在するのだから、イベント的に大会を開催する協会ではなく、少ない予算でももっと九州の酒販店のために常に何が出来るのかを考え行動する協会であってほしい」。

 対して協会古藤会長は「改正法で中身が変わってきている。公取と国税庁の連携もでき中身が濃くなり免許取消まで来ている。法施行案が出来たところで申告という考えで、決して安売りに目をつぶっているわけではない。法律を見極め行動したい」と応じた。

 坂田会長は「おとり広告の規制が大事だと思っている。あきらめているわけではなく、心配だからこの法律をつくっていただいた。そのなかに質問検査権の拡充がある。これは税務署が宝刀を得たということ。仕入れはいくら、リベートはいくら、原価はいくらだと全部聴き出すことができる。この法律が通ったからといって、すぐ値段(市場実勢価格)が上がるというわけではない。今度は公取と財務省はお互いに連携強化し、しっかりやると思う。原価割れの極端な安売りはなくなる、ということだけはしっかり覚えていただきたい」。

 義務化となる酒類販売管理研修に関し、岩本秀一氏(熊本県)が要望した。「現場での法令・表示違反を目の当たりにしても指導注意もできない。せめて講師に指導権限をいただきたい」「研修内容にバラツキがないように、中央会作成のスライドに音声を付けていただきたい。講師の負担軽減につながり、講師が質疑応答に時間を取れるようになり研修充実につながる」。

 組合員と非組合員の受講料の差がどこまで認められるのかを問うたのが佐藤勝司氏(大分県)。賦課金を納める組合員と、そうでない非組合員の受講料には差があってしかるべきとの訴えで「説明が付く価格設定ということで、いくらまでなら良いのか」。坂田会長は「管理研修の金額の決め方にはマニュアルがある。中央会で各県連にお送りしている。会場費とか講師にかかる費用、受付準備の事務局にかかる費用など。差があまり大きいと困るが、3、4千円程度の差なら問題ないだろう。5千円、1万円の差があってもいい。ただ申し開きが出来るか、完全に裏打ちできる証拠があれば構わないが。中央会にお聞きいただければすべてお答えする」と答弁した。

 さらに岩本秀一氏(熊本県)から“講師協会”立上げ提案があった。研修義務化へ向け研修・講師をレベルアップさせる母体設立を求める声だ。「講師には常に講習内容の充実、講習方法の勉強など様々な機会を通じスキルアップを図る必要がある。そこで九州各県に仮称、講師協会をつくり、講師のデモンストレーションを含む勉強会、県独自の研修機器の費用の捻出、また他県組合の講習方法の勉強会や、中央会からコア講師を招き合同研修会など開催できたらと思う。一つの県では予算的に難しいことも、九州がまとまれば可能になる。受講者へ還元されるもので、受講料の一部(を運営財源)とすることを考えている」。古藤協会会長は「北部3県ですでに2回ほど講師研修を実施しているが、今後は質の向上が求められ、そうした研修も北と南で合同で実施すると負担も少なくなるだろう。ご提案について県連会長会で話し合いたい」と見解を示した。

 全酒協酒券事業に係る質疑応答もあった。久間生樹信氏(福岡県)は「中小企業等協同組合法によると、組合員の総売上の100分の20という規制があるが、販売促進費というかリベートが出されていると聞く」。

 全酒協吉田会長が答弁した。「ご指摘は同法にある員外利用の規定。平成16・17年ビールメーカーがビール券の販売を中止したが、その実績を全酒協で取り込もうと検討した際に、員外利用の問題について国税庁、中小企業団体中央会に相談確認した。問題点は2つ。販売と回収。販売に関しては、全酒協が発行する商品券がスーパーや大手デパートを経て流通しても員外利用に当たらない。20%ルールは適用しない。回収については、商品券の交換は、組合員店のみで商品と交換できるのが前提なので、非組合での交換は員外利用に当たり、その範囲は20%以内となる」。

 リベート拠出等の疑念に対しては以下答えた。「メーカー券の発行中止に伴い、全酒協の市場拡大のために、組合員と比較的競合が少なく、一定の条件を満たしていると思われる組織小売業へ販路を広げて推進することにした。この流れのなかで、酒販卸を経由して組織小売業に販売するもので、かつ組合が提示する通常販売価格で酒販卸と取引が成立しない場合に、全酒協は一定の額を連合会に助成する『組織小売業取引助成金制度』があり、上限大びん券で6円、缶券で6円を支給している。リベートということでは出していないが、今年10月北九州ブロック会議で、ビール券等の取引で、組合同士で競争するのはいかがなものかと質問があり、助成金制度の見直し等検討する予定だ」。

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 次期開催地は熊本県。松本隆司県連会長は、被災後に中央会代表が見舞金を持参し来熊したこと、九州各県や全国から義援金が寄せられたことなどに触れ感謝の言葉を述べた。県内のメーカーや卸が甚大被害に遭ったが、被害が少なかった球磨焼酎酒造組合の協力が得られそうだと語り、「九州が一つになり唯一中央会と連帯を生む会」だとして主管県となって熊本大会を成功させることへ強い決意を示した。