柿渋・カキタンニン研究会市民講演会

2016年11月09日

 【京都】「柿渋の魅力と課題、そしてエコ社会の再生へ」と題して、柿渋・カキタンニン研究会市民講演会(松尾友明会長)が、10月27日、国立国会図書館関西館(京都府相楽郡精華町精華台)で大学教員、柿渋およびカキタンニンの生産、加工、文化に関する活動を行う会員ら約150人の下開催された。合わせ、柿渋を使った様々な製品の展示と解説、同図書館の見学も行われた。

 講演各氏と要旨

 ▽松尾友明会長「開催趣旨と研究会の活動内容及び国立国会図書館と共催する意義」=柿渋は渋味成分カキタンニンが高濃度で含まれている渋柿の搾汁液を半年から1、2年発酵させて、簡便に夾雑物を減らして様々な用途に利用できるように工夫して製造されたもの。天然物質である柿渋及びカキタンニンの理解と普及・応用を目指し、研究会を平成25年5月に京都府立大学の教員を中心とした有志により設立した。本研究会は、柿渋の原料柿の生産拡大を促進するとともに柿渋およびカキタンニンの生産、加工、文化に関する活動を行い、柿渋関連産業の発展と柿渋文化の保存と継承に寄与することを目的としている。

 ▽濱崎貞弘(奈良県農業研究開発センター加工科総括研究員)「柿渋原料果実の生産向上に向けての課題克服について」=柿渋原料果実生産もまた危機的な状況にあるが、安定的な柿渋原料果実の生産において検討すべき課題として、柿渋原料果実の生産に求められる経済性(柿渋原料果実の生産は、奈良県においては梅に準ずる同等以上の収益が得られること)、 経済性を確立するために必要とされる技術的課題の克服が必要となる。

 ▽板井章浩(京都府立大学大学院生命環境科学研究科)「渋柿の渋の抜ける、抜けないのはどうして決まる!?」=カキには、甘ガキと渋ガキがあるが、渋味がない完全甘ガキ、渋が残る不完全甘ガキ、渋味のある不完全渋ガキ、著しく渋味のある完全渋ガキの4つのタイプがあり、品種によって脱渋に難易が生じ、これまでにもいくつかの研究報告がみられる。

▽坂村裕之(島根大学生物資源科学部)「渋柿の渋み成分の悪酔い防止効果とサプリメント販売戦略」=悪酔い防止にカキ果実が有効かどうか。「悪酔い防止とカキ製剤」に関わる西条柿の第六次産業化に携わり、西条柿を活用してエキスを抽出、粉末化してカプセルに詰めた「柿の実エキス」が販売された(その後販売中止)。引き続き「ドリンク剤」が「晩夕飲力」という名で商品化され、現在に至っている。

 ▽田中直輔(田中直染料店九代目)と加賀城健(染色作家)「柿渋と染織」=染色の業界での柿渋のつながりは、伊勢型紙を代表とする渋紙でした。和紙に柿渋を塗り重ね、室で燻すことで耐水性を持たせた型紙。その昔は渋紙の耐久性を保つために、柿渋を塗り重ねるとか、合成の染料にまぜるとむっくりした色合いになり、草木染のようになるなど、わき役として販売をしていた。

 当時、酒蔵でも酒袋を使っていたが酒袋がなくなり、柿渋を使って一から染める作品が広まったが、柿渋で布を染める特別な技術はなく、ただ柿渋を塗るか浸けるかして、乾燥したものがあちこちに出回ることとなった。弊社として柿渋を染料化した商品の開発をはじめ、柿渋糊の開発による柿渋作品のアート化に成功、柿渋の短時間固着剤の開発を行ってきた。

 ▽依田紀久(国立国会図書館関西館文献提供課)「柿渋研究の情報基盤を考える:データベースの活用からみえるもの」=昔から渋柿作りや柿渋の生産と利用などの歴史が研究され、その成果は文献に著されてきた。また現在柿渋・カキタンニンに関する科学的な研究も行われ、その成果も文献に著されてきた。国立国会図書館ではこのような文献の多くを所蔵しており、これらの成果は、各種のデータベースの検索から、かなり容易に収集できる。天然物質である柿渋の可能性を探り、活用を広げ、魅力を伝えようとするとき、公共図書館において、“ビジネス支援サービス”など、課題解決を目指す人たちを情報面からサポートする動きが充実化してきている。柿渋研究、さらには柿渋に関わる活動全体の情報基盤について、みなさんと共に考えたい。