東海大 新刊紹介「くまもと地域づくり事例18選」新田時也著

2016年09月09日

 熊本地震後に初めて出版される、熊本のまちづくりに関する書籍。地震以前の“よき熊本”を収録。過疎等の逆境を乗り越え、地域の魅力を発信するひたむきな姿であふれる。「本書で取り上げられた人々はもうすでに前を向いて立ち上がっている」(熊本県・蒲島郁夫知事推薦文)。やれると、元気を取り戻す力を秘める。

 著者は、「東海大学」現代教養センター「『食』の文化と経済学研究室」准教授。熊本市のびぷれす熊日会館で公開シンポジウム「六次産業推進セミナー」を毎月開催(東海大学総合研究機構から一部補助を受け実施)するなど、地域活性化の起点となる当事者と、固定観念を持たない市民がともにまちを興す模索の機会をつくってきた。起爆剤となる六次化推進の核として酒類や酒蔵が登場するケースが少なくない。復旧復興の取組にも寄り添い、「人と人が繋がる」なかに打開策を見い出す。
 第一章賑わいづくりとして、水前寺「手作りのお祭りの誕生」、人吉「球磨焼酎を知り、農家と語ろう」、山鹿「街道を歩こう」、川尻「まちぐるみのお祭り」、新町「地元のお宝探検」、高森「新酒祭り」。酒蔵開放イベントが誘客をけん引する。地域の人の支えで酒蔵が立ち、経済波及効果まである力を魅せる。

 第二章は人をつなぐ特効薬、「食の活用」がテーマ。第三章「歴史・自然・伝統資源」でも地域活性化の可能性を広げて見せる。

 “ワンポイント経済学”も興味深い。6次産業は1次産業(生産)・2次産業(加工)・3次産業(販売)を併せた産業体としての造語で、六次産業化法(平成22年12月公布)に由来。正式法律名が目的を表す。「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」。地域の食資源の魅力を全国発信する契機となり、そのまま観光振興につながるとの見方だ。

 「我々は熊本の豊かな自然の上に暮らしを営み、それを活かして魅力ある地域をつくり上げてきた。しかし今、その自然が人間に脅威をもたらしている」(蒲島知事)。暮らしやまちの再生へ「とてつもなく険しく長い道のり」を歩む、一つの道標ともなりそうだ。

 ▽A5判128ページ▽本体1300円+税▽制作・発売・問合せ/熊日出版(熊日サービス開発出版部)TEL=096―361―3274