鹿児島県本格焼酎技術研究会 講演会

2016年08月04日

 【鹿児島】「鹿児島県本格焼酎技術研究会」(乾眞一郎会長、事務局・鹿児島県工業技術センター)が7月22日、鹿児島市のホテルウェルビューかごしまで定例講演会を開催した。研究会は県内焼酎メーカーのほぼ全社、83社(平成28年7月現在)で組織。2題の話=①焼酎輸出の実情(大口酒造 本格芋焼酎「黒伊佐錦」醸造元=鹿児島県伊佐市 常務取締役・営業本部長・山田浩一氏)②最近の日本醸造協会の事業について(公益財団法人「日本醸造協会」 東京都北区滝野川 代表理事・会長・岡崎直人氏)=を120人が聴講した。

 当日は総会もあり新会長に乾氏を再選。「鹿児島県の本格焼酎は依然厳しいが、乾杯条例での盛り上げや、ふるさと納税の返礼品でも好評だ。新知事誕生で我々の業界へも新しい風を吹かせてくれると期待している」と語った。

 講演①焼酎輸出の実情 「輸出すること自体は大変なことじゃない。実際はそこから先、どう消費してもらうか」が課題とし、実際の販促策を示した。一方、世界情勢に触れ「いま輸出して飲んでと声高に焼酎をPRすることは、非常にテロに遭遇する危険性がある」と指摘した。

 同氏は九州大学大学院「Sho-Chuプロジェクト」理事。九州の存在感を焼酎で高め、九州の焼酎をお酒として文化として愛してもらおうと活動している。

 海外での九州の認知度は、東京や京都と違って非常に低い。ほぼゼロ。世界で蒸留酒と言えば、ジン・ウォッカ・テキーラ・ブランデー・ウイスキー。焼酎は入って来ない。

 しかし九州は世界最大の蒸留所集積地。九州(7県)の面積は4万4700平方㎞で、蒸留所が329。スコットランドが7万8000平方㎞で、102。これをイギリス人に言うとびっくりする。製成数量シェアは94%。1093億円の酒税も収めている。5千を超す銘柄があり、まさに焼酎銀河。

 「焼酎が清酒に比べ輸出で伸び悩んでいるのは、RTD=そのまま飲める商品、ではないから。色々な飲み方がラベルでは伝わらないことが原因の一つではないか」。 

 韓国焼酎は現地の人も飲むらしい。タイに輸出した場合、1本キープすると日本円で4000円ぐらいになる。韓国製は1000円もしない。FTA(自由貿易協定)関税撤廃もあり価格訴求力がある。

 海外では家庭消費は無いに等しい。日本食レストランへの売り込みが有効な切り口だ。2006年2万4千店だったのが、13年5万5千店、15年8万9千店と増えている。ロシアは1850店だが「こんな数字じゃない。いま鮨屋が凄い」。

 上海では業務店を貸し切り「焼酎を楽しむ会」を続けている。飲み方や歴史文化を含め本格焼酎の魅力を伝える。以前は“黒伊佐錦”を楽しむ会としていたのを、今はあえて“鹿児島焼酎”をとしている。そうすることで現地の日本大使館・領事館、企業も応援しようとなる。

 中国から輸出の話、俺に任せろとか、俺と組もうとか来ると思うが、人民政府主導でやって半公営企業のようで非常に撤退が早い。債権回収に困ることがあるので、大口の商談に対しては将来性があるのかどうかを考慮した方がいい。

 上海で一番大きい日本食レストランで、焼酎の棚をこんなに取れた。上海に語学留学していた宮城県出身の女の子に、週数回、テーブルを回って注文を取ってもらった。片言の中国語で勧めると一本キープしようとなる。でも、この子に直接ギャラを払うのではなく、そういう案内事務所のようなものがあって、そこに払うお金が馬鹿にならなかった。それで止めるとたちまち棚から当社の商品は消えた。

 業務店は趣味とかで接点が出来ると、必ず応援してくれる。置いているだけではダメで、どうすれば押していただけるか。まんべんなく売ろうと思っても無理。協力してくれる店を見つけると意外とそこが核となり市場を取れる可能性がある。

 実際、世界における焼酎では韓国製焼酎がスタンダード。アメリカの焼酎マーケットでは韓国製が90%、日本製が7%と圧倒的大差がある。最大の輸出先の中国の焼酎マーケットでも、韓国製82%、日本製11%。韓国製「ジンロ(真露)」の2013年生産量は333万石。日本のトップメーカーの7~8倍もある。美味しいけれど高い日本の焼酎。焼酎であれば、安い韓国製で十分というのが今の世界の焼酎に対する評価だ。「国内メーカーで競い合っている場合じゃない。対ジンロ、対韓国焼酎、を真剣に考えた方がいい」。

 海外での消費はほとんどが在留邦人。中国では減っている。中国人の富裕層はビールの次ぎはワイン。焼酎に移るユーザーは少ないと思う。

 アジアの人がどれぐらいアルコールを飲んでいるか。平均飲酒率は韓国で78%。次ぎは日本で69%。中国だと56%で女性があまり飲んでいない。タイも51%で女性が飲んでいない。所得とも関係があり、韓国も日本も高所得者の方が飲んでいる。ウズベキスタンでは低所得者の方が飲んでいる。マレーシア(平均飲酒率12%)とかインド(同14)では所得にかかわらず、あまりアルコールは飲まない。

 宗教との関係もあり、我々が考えるほど世界では飲酒に寛容ではない。いま焼酎を売るのも、イスラム原理主義者、IS=イスラミックステート、イスラム教絶対主義者は聞く耳なんて持っていない。今日はPRでやっているんだと言っても容赦なんてない。マレーシア、インドネシア。商談もあると思うが十分に留意願いたい。

 日本に来る外国人、日本に住んでいる外国人を焼酎ファン、焼酎サポーターにすることで、やがて焼酎を母国でPRしてくれる可能性がある。どうやってインバウンドに立ち向かっていくのか。愉しみに日本の酒を飲むことがある。新幹線の新潟・越後湯沢駅に、500円でコインが5つもらえて色々な日本酒が飲める機械がある。鹿児島中央駅とか鹿児島空港、天文館とかに色んな鹿児島の焼酎が飲めるスポットが出来れば。知事が代わって新体制になった機会を捉え実現させたい。9月「外国人特派員協会」で本格焼酎のPRをすることも明かした。 講演②最近の日本醸造協会の事業については次号