平成28年熊本地震【続報】

2016年04月25日

 【熊本】「熊本地震」について4月15日付け本紙既報は、4月14日午後9時26分発生「前震」後の業界被害の模様だった。4月16日午前1時25分マグニチュード7・3「本震」後、状況は一変する。軽微な被害が激甚へ、不安の度が一気に広がりダメージを深めた。大分県での地震と合わせ報道されるが、熊本県での被害は他地とは別物である。一般報道と現地取材の事実にはギャップも。さらにSNS等での甚大被害情報の拡散から一人歩きする話には誤りがある。「熊本県酒造研究所」(清酒「香露」醸造元、熊本市中央区島崎)発祥の「熊本酵母」の危機が呟(つぶや)かれているが、そうした事実はなく、同酵母の保管・培養に一切の支障はない。酒類卸・小売では地域によっては在庫・陳列商品が全損に近い被害があるが、営業再開の意志は萎えていない。蔵元へは県外流通から大量の“見舞い発注”が入り「有難い」との声も。業界を見渡して何よりも、人的被害が無かったのが救いだ。「津波や放射能は無く、その分恵まれているしゴールは見えている」。自らを奮い立たせる、そんな言葉も聞かれた。<九州支局=上籠竜一>=関連記事3面

 本震によって、清酒「香露」醸造元、熊本県酒造研究所の煙突は倒壊した。使用していないが、大正年間設立以来の歴史を刻む研究所のシンボルの一つだ。前震では耐えたが、今回は持たなかった。高さ22mの煙突は、隣接する九州新幹線高架へ寄りかかるように崩壊した。

 森川智製造部長によると、火当てを要する酒が残っているが、それ以外の製造に係わる仕事はすべて終えている。崩壊部は元々改修を要する箇所で、今後の製造及び充填に支障はない。井水に濁りはあるが、戻るとの見方。上水を調水したもので代用も出来る。

 熊本酵母は健在。電気は通っているし、不測の事態に備えた発電施設もある。前・本震で製品破損の被害はあったが20日には福岡や東京方面向け出荷を再開している。

 敷地内にある、酒の神様・野白金一氏の像は厳然と立っている。熊本酒造業界は灰持酒(あくもちざけ)の赤酒から清酒への大転換を目指し氏を迎え、研究所は明治42年、瑞鷹製造場の一部に酒造工場を新設提供することで設立した<大正7年、現在地で正式発足>。

 昭和28年ごろ、分離実用に至ったのが吟醸酒造りに向く熊本酵母だった。同酵母は昭和43酒造年度から協会9号酵母として全国へ頒布。発酵管理の目安となる研究所・萱島昭二氏の“B曲線”は流行語になった。そして“YK35”(Y=山田錦を、35=%精米歩合で、K=熊本酵母で仕込む)が全国新酒鑑評会「金賞」受賞の方程式となり吟醸酒ブームの礎を築いた。
 熊本県酒造組合連合会(研究所に隣接)は熊本酒造組合(12社=清酒10、焼酎2)と球磨焼酎酒造組合(28社)で構成。県南の球磨・人吉地域にある球磨焼酎製造者に被害は無かった。

 熊本県内の醸造元では瑞鷹(熊本市南区川尻)の酒蔵が崩壊の危機、美少年(菊池市)は製造や営業再開のメドが立たない被害に見舞われた。通潤酒造(上益城郡山都町)、山村酒造(「れいざん」阿蘇郡高森町)の被害も少なくない。その他の蔵でも製品の損失、建物の損壊、酒の亡失などがあった。

 昨年177万人が訪れた熊本城をはじめとする史跡・施設の損壊で、観光客減が憂慮され、飲食市場の急激な冷え込みも業界の再建にブレーキをかける要因となることが予想される。