白金酒造、新感覚芋リキュール

2016年01月22日

 【鹿児島】鮮やかなカメレオンのラベル。華やかな紫色をした酒類の味わいは、確かに芋焼酎だ。色からイメージする香味とのギャップで驚かせるオイモノオサケ「UWAKIいも」は、木樽蒸留の芋焼酎原酒を使用した“芋香る”リキュール。創業明治2年、焼酎蔵元として鹿児島県内で最古の歴史を誇る「白金酒造」(本格芋焼酎「白金乃露<しらかねのつゆ>」醸造元=竹之内晶子社長、姶良市)が商品開発に挑み、昨年12月発売された。独創的な発想で目指したのは、派生商品では得られない消費者の想像を超えていくこと。そのインパクトを話題喚起につなげるのが狙いだ。

 「色が付いた芋焼酎があってもいいのではないか」――。そんな思い付きが商品開発の発端だ。蒸留工程によって焼酎は透明な液体になり、樽貯蔵等をしない限り色は付かない。そこで色付きではあっても焼酎の味わいはそのままというコンセプトで、芋焼酎をベースに着色素材を加えるなど独創性が発揮出来るリキュール種別での商品開発に入った。経緯や企画の目的について同社代表取締役専務・川田庸平さん(34)に話を聞いた。

 着色素材の選定では「できるだけ天然の着色料」、それも「さつまいも由来の着色料」を探し求めたという。ヒントを得たのはアイスクリーム店だった。「アイスクリームは様々な種類があって見た目もバラエティ豊か。いちごやみかん、メロンなどのアイスクリームの着色には原料由来のペーストが使われていると教えていただき、早速紫芋ペースト加工業者を紹介いただき理想的な素材を得ることが出来た」。実際の商品製造では作業性を考慮し、ペーストをパウダー化したものを使っている。

 着色のハードルはクリアしたが、大切なのは「美味しくて、かつ芋焼酎らしさを保っていること」。そうでなければ「リピートはない」。リキュール規格とするためエキス分等を加える必要があるが、こちらは芋焼酎の味わいを損なわない、甘くない澱粉分解物を選んだ。「もともと芋焼酎の風味は非常にデリケートで、紫芋パウダー、澱粉分解物、ベースの芋焼酎の配合を少しずつ変えながら利き酒を繰り返し、見た目、味わいともに満足できる酒質となるまでに約1年半の歳月を要した」。最終段階での利き酒で、芋焼酎の風味が弱かったことから、木樽蒸留酒を100%使用することにした。

 「ふだん芋焼酎を飲まれている方でも抵抗なく飲んでいただけるよう、香り味わいとも芋焼酎を強く感じる酒質にこだわった」商品。いわば「いつもの焼酎とは違う、新しいお酒を飲んでみようと思わせる商品で、たまにはUWAKIしてみませんかとの思いを込めネーミングした」。

 ▽種別=リキュール▽原材料=芋焼酎・紫芋パウダー・澱粉分解物・酸味料▽アルコール分=20%▽容量/希望小売価格(税別)=500ml瓶/1000円

 様々な条件下での変色試験も行い「通常の酒売り場の環境では変色しないことも実証済み」だ。

 さらに商品開発の過程で驚きの発見があった。液温が10度以下になると、澱粉分解物の溶解度の影響で白濁してくる。例えば冷蔵庫に入れたり、ロックで飲むと色が変わる。ラベルにカメレオンをデザインしたのは、そんな変化も楽しんでほしいとのメッセージだ。

 冷蔵保管など流通段階で色が変化する可能性もあるため、首掛け・チラシ等に記載のQRコードを通じ変色に関する説明を行っている。単純には白濁した商品も常温保管し、液温が10度以上になると、元に戻る。

 色の変化は「偶然の産物」だが飲食シーンを華やかに演出する提案にもつながりそうだ。5対5割りで、▽ロック=乳白色に変化。芋焼酎の味わいを強く感じることが出来、芋焼酎ヘビーユーザーにもお勧め▽水割り=ロゼワインの様な鮮やかな色になり飲みやすい▽お湯割り=甘い芋の香りが引き立ち、食中酒としてお勧め▽ソーダ割り=ロゼシャンパンのような見た目と、すっきりとした飲み口が特徴▽トニックウォーター割り=種類にもよるが少し赤く変化。トニックの甘みで女性にお勧め▽ソニック割り=炭酸水とトニックウォーターを1対1に割った「ソニック」で割る。シャープな味わいでキレが良くなる。少し蛍光色ピンクのような特徴的な色合いになる。

 販売促進では売り場でPOP等を通じた訴求を進めるほか、飲食店を対象に専用グラス付きキャンペーンなども計画している。さらに商品特性を活かし、酒販売が可能な雑貨店など特殊な売り場へもアプローチしていきたいという。

 商品開発のスタートは2年前。同社にとっては社員の人材育成という副産物があったようだ。「今回の商品開発は自由な発想、独創的な商品づくりが大事だったので開発企画担当チーム“№2プロジェクト”を立ち上げた」。メンバーは各部署の長の次の立場で働いている主任クラス。「上からの締め付けから離し、固定概念を捨て自由な発想で伸び伸びと取り組むよう促した」。ただ商品発売は実業に資することが大前提。「発売に向け、各所属長の許可をもらうため、自分たちで様々な困難をクリアしていく勉強の場となった」。

 焼酎ブーム後、川田専務は他の焼酎メーカー同様、厳しい販売状況を打開する策を探していた。「海外では日本では考えられないような色をした飲み物が販売されていた。日本の焼酎は日本食レストランをはじめとする飲食店で、現地の方々にも人気だった。海外発売も視野に、色の付いている芋焼酎があっても良いのではと思うようになった」。

 商品開発では消費者の想像を超えることが必須だと考えた。「これまで焼酎業界では派生商品を発売してきた。当社で言えば『白金乃露』がヒットしたらそれに派生し黒麹、原酒、パックなどを出していくようなことで、どれもお客様の想像できる範囲での商品開発が主だった。清酒の大吟醸や純米、本醸造などランク付けがない焼酎業界では、商品そのものにインパクトを持たせ差別化することが課題だった」。

 「焼酎から離れていった人、特に焼酎を飲みたくてもレジに持っていくのが恥ずかしいという若い女性にも飲んでいただきたい」とも。「焼酎業界を再び盛り上げる一助になれば」との想いが強い。

 白金酒造は明治2年、初代・川田和助氏が「川田醸造店」として創業。大正元年「白金乃露」を発売した。昭和27年「白金酒造㈱」設立、61年に手造り焼酎蔵「石蔵」(平成13年「国・登録有形文化財」指定)を再興した。その蔵では麹室での製麹、甕壷仕込み、木樽蒸留と、杜氏伝承の技が今に引き継がれている。

 現在2つの製造場、石蔵がある重富工場(姶良市脇元)と、平成16年新設の平松工場(同市平松)がある。

 同社の“和助どんの焼酎”は「和助焼酎」の名で一世を風靡した。西郷隆盛もたびたび蔵を訪れ、西南戦争の際には蔵の焼酎をすべて買い上げた逸話も残っている。

 蔵元の竹之内雄作会長は「かごっまふるさと屋台村」(鹿児島市・JR鹿児島中央駅前)を運営するNPO法人「鹿児島グルメ都市企画」の初代理事長を務め、初年度で来客50万人突破など、中心市街地のにぎわい創りをけん引した事績がある。