日本ワイナリー協会横山理事長が会見

2015年12月15日

 日本ワイナリー協会の横山清理事長は12月10日、年末記者会見を開催し、2015年の国産ワイン市場の動向、2016年の展望などについて、要旨、次のように話した。

 横山理事長

 2015年のワイン市場は、為替変動に伴う値上げの継続やTV効果によるウイスキー需要拡大などの影響があったものの、国税庁の課税数量では8月までは前年比104%と、引き続き拡大局面が継続している。直近の家庭内消費データやボージョレ・ヌーボーの販売動向を鑑みると、2015年の年間着地は数量前年比で国内製造ワインが100~101%程度、輸入ワインが103~104%程度、市場トータルでは102~103%程度と、昨年同様堅調な伸張が続くものと考えられる。

 ワインはまだまだ消費数量は少ないものの、着実に日常の飲み物として普及しており、低価格品の伸張が継続する中、国産ぶどう100%の「日本ワイン」を含めた高価格品への需要も伸びており、引き続き消費の二極化も進んでいる。

 ただし米ドル、ユーロに対して円安傾向が継続しており、それによるコスト上昇が来年度以降のワイン消費に大きな重石になる可能性は否定できない。

 国内製造ワインについては、酸化防止剤無添加ワインカテゴリがさらに増加し、大容量、PETや小容量などの容器の違いによる提案での需要の広がり、そして業際的な商品提案も昨年に引き続き活発化し、消費者にとっては選択肢がより広がった一年になったと感じている。

 国産ぶどうを100%使用した「日本ワイン」については、10月の国税庁告示で正式に規定され、2020年の東京オリンピックに向けてさらに伸張し、国際的にも今後、大きく羽ばたいていくことが期待される。「日本ワイン」については、引き続き消費者、そして流通の関心も高く、また品質的にも年々よりレベルの高いワインが造られており、ますますの発展が期待される。

 輸入ワインについては、為替の影響はあるものの、チリが輸入通関で1位となっており、また日豪EPA発効によるオーストラリアの伸張など、新たな局面を迎えている。次年度以降はTPPの批准やEUとのEPAの交渉結果によってはさらに伸張要素が増えると思われる。

 今年の10月30日に国税庁から「果実酒などの製法品質表示基準」が告示された。これまで日本ワイナリー協会、道産ワイン懇談会、山形県果実酒酒造組合、長野県ワイン協会、山梨県ワイン酒造組合を構成団体とした「ワイン表示問題検討協議会」が制定した業界自主基準「国産ワインの表示に関する基準」を約30年にわたって運用してきたが、あくまで業界の自主基準ということで、遵守についての法的拘束力はなかった。今回はワイン全体、特に「日本ワイン」の消費拡大を背景に、国際的なルールを踏まえた表示の基準が国税庁によって制定されたということは、日本ワイナリー協会としても大きな一歩と評価している。経過期間が3年あるが、日本のすべてのワイナリーが遵守してさらに日本のワイン産業が発展していくように、当局には丁寧な説明と指導を要望するとともに、協会としても運用遵守に全面的な協力をしていく。

 今年1月に発効した日豪EPAに引き続いて域内の自由貿易の促進と国際通商ルールの統一を目指すTPP(環太平洋パートナーシップ)交渉が10月に合意した。これにより発効後8年目にボトルワインの関税が撤廃されるとしている。日本のワイン市場の7割以上が輸入ワインであり、TPPの発効によりアメリカ合衆国などの輸入ワイン関税が低減・撤廃されることで、日本のワイン市場がさらに活性化するメリットがあると考えられる。一方で日本ワインについては、現在成長しつつある小規模ワイナリーが多いことから、ワインの関税撤廃については、激変緩和を要請し、即時ではなく発効後8年間をかけて撤廃となったことで、配慮がなされたものと評価している。また、海外に比べて非常に割高な国産ぶどうを使用して製造したワインに対する酒税の軽減税率制度の導入などを税制改正要望として提出している。

 ワイン市場の中長期的な伸張傾向は引き続き力強いものがあると確信している。しかし他の酒類に比べると消費者がより気軽に日常的にワインを楽しんでもらう提案を継続していくことが必要だと考えている。たとえば飲食店ではワインを手ごろな価格で気軽な料理と一緒に楽しめるバルのようなお店が定着し、これらのお店がワインに対する敷居を低くし、裾野拡大に貢献していただいているが、さらに消費者がワインをより楽しみたくなるグラスワイン提案や飲み方提案、食マッチ提案などを広げていくことが大切だ。

 また、ワインの家庭内需要をより推進するべく、コストパフォーマンスに優れたワインの提案や季節ごとの催事に絡めた提案を継続していくのはもちろん、引き続き容器や容量といった面でも消費者の使い勝手を改善していく必要があると考えている。あわせてより気軽に、手軽に楽しめる業際型の新商品提案も含めてワイン市場の裾野を広げていくことも大切だと考える。また消費の二極化に呼応したファインワイン分野での価値訴求や消費者の飲用シーン提案も今後の市場拡大への重要な鍵だ。

 「日本ワイン」についてはその品質価値をしっかりと普及啓発に努めるとともに、適地適品種に基づいてより産地形成を目指し、行政にも支援いただき観光業や農業を複合的に結び付けていくことも重要だ。協会活動としても2015年に初開催した「日本ワイン祭」を2016年以降も引き続き実施し、「日本ワイン」の認知、普及、販売拡大をさらに支援していく。ワインの価値である多様性をさまざまな視点で提案していくことがワイン市場の拡大につながっていくと思う。

 2016年のワイン市場は、為替の円安傾向が継続するのであれば、さらなる価格の改定が検討される事態も予想される。また直近では7―9月期の実質GDP成長率が0・2%減、年率換算で0・8%減と予測されており、個人消費は前期比プラス0・5%とプラスに転じたものの、食料品や日用品などの身近な商品・サービスの価格上昇が続いていることが消費者の節約志向を強め、今後冷え込みも危惧される。過去にもワインバブルの崩壊やリーマンショックによる景気の低迷にもかかわらず、中長期的なトレンドとしては右肩上がりに伸張してきたワイン市場の成長は来年も継続するものと確信する。2016年もより多くのワインがより多くの消費者の日常の食生活の一部として楽しまれるように協会を挙げて活動をしていきたい。