清酒「泰斗」仕込みに使う亀の尾、蔵元や取扱い酒販店が生育

2015年10月02日

 【熊本】清酒「泰斗(たいと)」の醸造元・千代の園酒造(本田雅晴社長、熊本県山鹿市)と県内の取扱い酒販店が、泰斗ブランド商品の仕込みに使うコメの一種、亀の尾の生育を観察する会が9月13日、阿蘇市の栽培田であった。同月20日ごろ予定の稲刈り間近。登熟最後期の順調を願い、コメの生産農家、酒の造り手・売り手が情報交換を重ねた。

 熊本は日本南限の清酒銘醸地。吟醸酒造りの礎となった熊本酵母が、野白金一氏によって昭和28年ごろ分離実用されたことでも知られる。その熊本酵母を使い、伝統的な熊本流の醸造技術を用い県産の山田錦などで醸されるのが「泰斗」だ。発売は1996(平成8)年。「くまもと酒文化の会」(藤原謙吾会長)が生販連携の母体で、現在県内26店で販売されている。

 純米酒(精米歩合65%)「亀の尾泰斗」は2010(平成22)年度からコメの栽培、酒の仕込みを始め11年発売の新バージョン。昨年度からは内田農場(内田智也代表、阿蘇市内牧)に栽培を委託、同市小里の5・5反に作付し反収6俵(1俵60㎏)、計33俵の収穫があった。春季に新酒で1・8l444本、720ml688本、秋季にひやおろしで1・8l717本を出荷済み。ひやおろしの在庫はわずかだ。

 2年目の今期も前期同様の作付。内田農場代表の内田さん(30)によると「登熟はゆっくりで作況は昨年ほどではなく減収になるかもしれない」という。

 「純米吟醸を増やしご迷惑がかからないようにしたい」(蔵元・本田社長)。一行は今年から始まった山田錦栽培の圃場も見て回った。主に「泰斗」の仕込みに使われることになるコメだ。内田農場では現在、55 haの田圃を運営。コシヒカリなど飯米がメインだが、3割ほどが酒造用米で、これまで亀の尾をはじめ、レイホウや五百万石の栽培実績がある。山田錦の栽培は1ha。火山灰土壌の黒ボク土で、短稈にする倒伏軽減剤を使い、反収6俵を目標としている。

 蔵元は、この阿蘇産山田錦を使って精米歩合40%程度の純米大吟醸を仕込みたいとの想いを募らせている。取扱い酒販店もそれを望んだ。内田さんは他県の蔵元から山田錦栽培の依頼があると明かしたうえで「熊本のコメで造った熊本の酒が飲みたい。この一帯が酒米の産地となるよう努力したい」と語った。

 観察会は直接、取引や売上増につながるものではない。それでも蔵元や取扱い店8店の関係者12人が参加した。熊本市内の酒販店主は、10月末新店オープンにあたり店の前に山田錦の稲を植え付けた田んぼを作りたいと内田さんに相談していた。往復6時間、遠く熊本県天草市から駆けつけた酒販店主は「お客さんにコメは阿蘇で作っているんですよと説明すると驚き感動していただける。ここを見ていないとそんな話は出来ません」と言った。伝える力を得るために、酒が生まれ来る現場にわが身を置くのだ。

 熊本が誇る地の酒を目指す「泰斗」。2016年3月、発売20周年の会が開かれる。