阿蘇内牧の「千代の屋」が主催 國酒堪のう、酒会に210人

2008年06月30日

 【熊本】観光地とはいえ、都市部の大消費地ではない土地で、これほど大きな酒会が開かれることはない。地元の人が、お気に入りの酒を味わい、さらに未知の旨酒に出会う機会。日本酒と本格焼酎の専門店「千代の屋」(阿蘇市内牧1509-3、村上和明代表)が一般消費者を対象に主催する“年に一度の國酒を楽しむ会”が6月20日、内牧温泉のホテル角萬であり、過去最高213人の来場者が、同店が取り扱う日本酒、本格焼酎、国産ワインの逸品を堪のうした。

 当日は日本酒35種、本格焼酎25種、国産ワイン2種--の“國酒”が、角萬の料理とともに存分に楽しめる趣向。料理はあらかじめホテルと検討し用意したもので、同地の人の味の好みや酒との相性に気を配り、ボリューム感での満足にも配慮した。福岡を拠点に活躍のミュージシャンのライブは村上代表の人脈で実現したもの。いわば企画・提案のすべてが同店による。

 17年前に15人程度の参加で始めた酒会が開花して、いまでは地元のホテルや旅館から結婚式の披露宴やイベント展開の相談を受けるまでになっている。國酒を核に、人に喜んでもらう提案、その実現のために積み上げてきたノウハウが高く評価されている。

 酒会を催したきっかけは、「取り扱うお酒のお披露目をしたい」(村上代表)という一本気から。その魅力を知ってほしいと力を込めても、希少価値など幻ブランドに引かれるお客さんには響かないジレンマ。味わえば分かると自信の品揃えだけに、魅力を伝える手だてとして行き着いたのが酒会だった。しかし生半可では続かない。「企画力やパフォーマンスをお客さんへ、どのように提案していくのか、いつも問われている」。

 くわえて同氏は、阿蘇の土地で酒屋を営む意味を強く意識する。野菜や農産物加工品など“阿蘇を語る”商品の販売をけん引し、炭のありのままの姿を生かしたオブジェなどの販売にも熱を注ぐ。草花の販売も、良いものなのに販路がないのをしのびなく思い、始めたものだ。そうして、日々の商いのなかで都市部より有利な地縁を固めてきた。そんな地縁に、酒会も支えられている。同氏の後継者、子息の秀典さんは、日本酒の蔵元で長期にわたり蔵子として酒造りに携わるなど、異なる視点で酒屋という生きざまを貫こうとしていることも、同店の強みだ。

 来場者の一人で、乾杯の発声をした小川一雄さんは、「この会は、美味しいお酒に初めて出会う機会でもあるけれど、それだけじゃなく、いろいろな人と交流を深める場にもなっている。千代の屋さんの企画提案がすごくて、それはきっと付き合いの幅が広いことで生まれているんだろう」と語る。酒会に参加した蔵元は驚きの様子だ。「専門店でもいまは、定期的に酒会を開くことが難しくなっているなか、この立地で続け、しかも来場者が増えている」。同店では同会以外に、日本酒の新酒やひやおろし、古酒、ワインをテーマにした酒会も定期開催している。

 フィナーレの抽選会は空くじなし。酒だけでなく、扱いの花も当たる。一喜の表情は、酒会ならではのものだろう。自ら良き酒と信じつくる出会いの場は、縁をつなぐ場ともなる。どんな立地、環境にあっても活路はあり、逆に強みがあることを、一つの酒会が実証しているように見える。